ちょっとした日常の幸せ

みかさやき

サプライズ曲

 仕事をすれば、生きることに価値がなくなる。


 分かっているけど、仕方ない。生きるためには、お金が必要。お金を得るためには、仕事が必要。


 だから生きたくないと思うようになっても、仕事をしなくちゃいけない。


「人が多いな・・・・・・」


 仕事について考えながら歩いていると、気がついたら知らないお店の前にいた。


 お土産屋かな? 入り口の装飾が和っぽい。


 周りにはたくさんの人がいて、そこから逃げるように私は店内へと入った。


 お土産屋だからだろうか、お土産用のお菓子がたくさん売っている。でもそういうお菓子に興味がないから、人や物にぶつからないように歩いて行く。


「あっキャラクターグッズだ」


 ここが奈良であるということを強調するように、鹿のグッズがたくさんある。


 鹿のグッズにはあまり興味がないので、私はさらに歩き続ける。


「ポストカードだ」


 奈良の風景が描かれたポストカード、それがたくさん売られている。


 ポストカードをおくる相手が私にはいない。でもついポストカードを見てしまった。


 本当はこういう景色に感動できる人生をおくりたかった。


 でも現実は仕事、仕事、仕事で疲れ切った脳は、もう何にも感動することができない。


 例えばテレビで流れている『聞いている人を元気にしたいです』みたいなことを言っている人が歌う曲。それを聞いても、何か私は思うことはない。


 ああ元気な人がいるんだな、そう思うくらいだ。だってしょせん他人は他人だ。仕事のせいで苦しんでいる心が、他人のはげましで元気になるわけがない。


「出よう・・・・・・」


 特にほしいものはない。


 そこでお土産屋から出て、さっきとは違う方向へと歩き始める。


『ふわりふわり 今日が終わる 幸せにならなくても 今日が終わる』


 透き通るような歌が、ふと聞こえた。


 周りで聞こえる人の声とは違う。とても優しい声で歌われている。


「あそこから聞こえる」


 さっきまでいたお土産屋。そこにはラジオ局のスタジオがあったらしい。


 そのスタジオは外から放送光景が見ることができるようになっている。おまけそこで放送されている番組が、外にいても聞こえるようになっていた。


「この曲初めて聞いた」


 今放送されている番組で流れている曲。聞くと優しい気分になっていく、辛さが少しずつ消えていく気もする。


 こんな曲、産まれて初めて聞いた。


 ラジオの番組なら曲紹介をするはず。どんな曲だろう。


 気がつけばスタジオの方に向かって、ふらりふらりと歩き始めていた。


 今はただ、ここに流れている曲の題名が知りたい。

 

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