第12話 エッチ後屋、プライベートゾーンへのタッチに激怒する


 村長むらおさは、「自分たちが賊におどされるままになっている」と村人たちに思われるのを忌避きひしたため、ほかの荒くれどもは一旦帰らせておババさまとゲス吉父きちち、それにかつがれるおヒメの四名のみで、すぐさまエッチ後屋ごやのもとへと急いだ。


「エッチ後屋ごやさまぁ、イケニエをおもちしましたですじゃ」


 すっかり手下のひとりのようになっている村長むらおさである。

 彼らがアジトとしている海岸沿いの洞窟の入口にて、野盗のひとりがエッチ後屋ごやを呼び出すのを待つあいだ、ゲス吉父きちちがニヤニヤとおヒメへ語りかける。


「しかし、こうなるとわかっていればおぬしを一度抱いておくんだったのぅ。いつのまにやら成長しおって。ところでおヒメ、ワシが出ているあいだに息子ゲスきちがひと晩帰っておらぬようなのだが、なにか知らんか?」


「私は……存じません。見てもおりませんので」


「おぬしに執着しとったようだから、ワシのいぬまに夜這いにでも行ったんじゃなかろうかと思っていたのだが、では抱かれておらぬのだな?」


「なぜ、私が望みもしない人に抱かれねばならぬのです……ゲスきちも、あなたも、ごめんこうむります」


 キッと強い叛意はんいをまなざしに宿してゲス吉父きちちへ向けるも、彼はむしろ楽しげに笑うのみである。


「気の強い女はええのぅ。屈服させるたのしみがある。こんな状況でようもそんな吠えられる」


 と言いながら、そそそとてのひらでおヒメの腹をなであげた。

 手を縛られたおヒメは身をよじってイヤがるが、ゲス吉父きちちの太い腕に拘束されてもおり、のがれることはできそうもない。

 くちびるを噛み、おヒメのひとみから涙がまたこぼれおちた。


 その手が胸へと到達しようというところで、奥から、エッチ後屋ごやがその姿をあらわす。

 エッチ後屋ごやは目をほそめ、状況を視認したあと――おもむろに青竜刀を突き出した。


「ギャアアアアア!!」


 ゲス吉父きちちのきたない悲鳴が、洞窟にむごく反響する。


 彼の、胸をわしづかもうしていたその手の甲に青竜刀がズブリと突き刺さっており、それをぐりぐりと痛ぶるようにえぐっているのだ。


「おいおっさん。同意も得ずに他人にふれるんじゃねェって何回言った? あ、おっさんにははじめてか。しかしなぁ、胸・腰・下腹部なんかはとくに軽々けいけいにふれるべきじゃあねェんだよ、それがどんなに親密な間柄でもなァ。おれはこれを『ぷらいべーとぞーん』と呼ぶことを思いついたんだが、ともかく嬢ちゃんが泣いてんじゃねェか。イヤがってるってことでいいのか?」


 エッチ後屋ごやが水をむけると、おヒメはぶんぶんと必死にうなずいた。


「このおっさんは、おめェの親父さんか? 親子であっても、かりに同性であっても、不同意での『ぷらいべーとぞーん』への接触をおれがゆるすこたぁねェがなァ」

「父ではありません。ただの同じ村の人です」

「無関係ならなおさらだバカやろがァ!!」


 ひぃ、ひぃぃぃと激痛でうずくまるゲス吉父きちちのあごを、エッチ後屋ごやがはげしく蹴り飛ばす。

 ゲス吉父きちちはみっともなく腹を天井にさらし、死の間際のゴキブリのようにぴくぴくと痙攣けいれんした。


「さて、この嬢ちゃんがイケニエか村長むらおさ?」

「は、はいぃぃそうですじゃ」

「ガハハ、こいつぁちょうどいい! よし、おめェら祭壇の準備だ!」


 そうして命じられた野盗どもと、へこへこしたおババさまの協力のもと、おヒメは『ぷらいべーとぞーん』への接触をたくみに回避されつつ丸太に縛りつけられた。

 そうして肉体へのタッチの話とイケニエの話は別腹とでもいうように、エッホエッホと砂浜へ運ばれる仕儀しぎあいなったのである――

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