第12話 階段に関する怪異

媒体:某オカルト雑誌ネットコラム

媒体:ブログ

収録年月日:2018年9月4日

※本人の特定につながるような固有名詞については訂正している。



全国の学校や団地、古いビルなど、私たちの身近な場所には「階段」にまつわる奇妙な噂が数多く存在する。

上り下りするだけの単純な構造であるはずの階段が、なぜか“何か”を引き寄せる。

今回紹介するのは、T県某所で語られている、ある階段にまつわる証言だ。


「あの階段、上った数と下りた数が違うんだって」


そんな噂を耳にしたことはないだろうか。

階段は、日常と非日常の境界にある。

そして時に、“語ってはいけないもの”を連れてくる。

今回の投稿者が体験したのは、まさにその境界が崩れる瞬間だった。





……あれを最初に見たのは、十一月の初めだったと思います。

夜勤から帰ってきて、団地の階段を上がろうとしたときでした。


うちは五階建ての古い団地で、階段は外階段なんです。

冬になると冷気が吹き付けてくる、コンクリート張りの階段です。

夜勤明けの午前四時、まだ空も暗くて、街灯の光だけが頼りでした。


4階の踊り場に、黄色い布が敷かれていたんです。

それだけなら、まあ誰かの忘れ物かなって思ったかもしれません。 でも、その上に、お菓子が並べてあったんですよ。


小さな個包装のやつ。ラムネとか、チョコボールとか。

きれいに並べてあって、まるで供えてあるみたいでした。


誰かがふざけて置いたのか、何か事件があったのか、子供の忘れ物なのか……

でも、正直ここに住んで5年になるんですけど今までそんなこと一回もなかったんです。


うちの団地、子供は少ないですし、夜中に階段をうろつく人を見ることもありません。

管理人さんも、そういういたずらは聞いたことがないって言ってました。


翌朝には、布もお菓子も消えてました。

誰が片付けたのかはわかりません。


でも、それからなんですよ。階段の音が変わったのは。


夜になると、誰もいないはずなのに、階段を“降りてくる音”がするんです。



ただ、ずっと、下に向かって足音が響いてる。


最初は気のせいかと思いました。

でも、何日も続くから、さすがに怖くなって。


他の住民の方にも聞いてみたら、何人かが「確かに聞こえる」と言ってました。

でも、誰もその音の主を見たことはないそうなんです。


それからしばらくしたある晩、私は階段の上に赤い帽子をかぶった子供が立っているのを見ました。

動かずに、じっと階段を上ってきた私を見ていたんです。


階段の照明があまり明るくはないので顔は暗くてよく見えなかったけど……首が、ちょっと長すぎたような気がして。


私は思わず階段を急いで駆け下りて団地の外まで逃げました。


階段を下りて団地の外から外階段の方を振り返ると私の住んでいる部屋の隣の方がその子供に話しかけていました。


そしたら、子供は階段を滑るみたいに降りていって……


その人、翌日から姿を見てないです。


管理人さんが掲示板に張り紙出しました。

「階段に供物を置かないでください」って。


でも、団地の人と度々その話になるんですけどやっぱり誰も置いてないんですよ。


なのに、夜になるとまた黄色い布が敷かれてて、お菓子が並んでる。


誰がやってるのか、誰も見てない。

でも、確かにある。


そして、階段の音は止まらない。

降りてくる音だけが、ずっと響いてるんです。


ある日、階段の段数が変わってることに気づきました。

上るときと下るときで、数が違うんです。


上ると十三段、下ると十一段。


何度数えても、同じ。


それを話したら、別の住民が「それ、語っちゃダメだよ」って言ってきました。


理由は分かりません。


私最近もう手遅れなのかもしれないって思ってるんです。


最近、夢にあの階段が出てくるんです。

黄色い布が敷かれてて、赤い帽子の子供が並んでる。


何人も、何人も。


そして、誰かが階段を降りてくる音だけが、ずっと響いてる。


私は、夢の中で階段の下に立ってる。


誰かが、上から見てる。


でも、顔は見えない。


首が、長すぎるんです。


……あれ、今も続いてますよ。たぶん。


階段の音は、止まらないんです。



[構成要素]黄色い布、お菓子(供物)、赤い帽子の子供、階段、視線 、張り紙(掲示物)、失踪 、音の変化

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