あなたと願いと星屑と

白石澪

流星群

『―続いてのニュースです。今年の七夕には例年にはない流星群が見れるそうです。これに関して気象台は……』

朝の雑音を聞き流しながら朝食のトーストを頬張る。適度にバターが塗られたそれは朝の眠気を覚ましてくれた。今日も変わらない一日が始まる。


朝食を食べ終え、朝の支度を終えると誰かに告げる訳でもなく学校に行く。学校に着くといつも通り荷物を片付け一限目の授業の教科書を意味もなく捲る。すると、担任が教室にやって来た。どうやらホームルームの時間らしい。それなのにも関わらず私の隣の席は空席のままだ。

「さて、ホームルーム始める……」


「おっはよーございまーす!」


教室中に元気な挨拶が響き渡った。

そうして私の隣の席の"ルア"がやって来た。


「おい、ルア、今日も遅刻だぞ?」

担任が呆れ気味に言う。それもそのはず。ルアは一ヶ月連続で遅刻している。今日で三十二日目だ。

「今日はまだホームルーム終わってないからセーフですよ、先生」

悪びれもせずに言えるルアは本当にすごいと思う。もちろん褒めてないが。

「おはよールイ!」

そうして、私の隣に座った彼女は私に伝えるだけなのにも関わらず人一倍大きな声で挨拶をした。

「おはよ」

そう短く返すと、「つれないなぁ」とボヤきながらルアは荷物を片付け始めた。

「それじゃ、ホームルームの続きをするぞ」

担任がそう仕切り直すと、少しザワついていたクラスメイトも静かになり、担任の声だけが教室には残っていた。


「ルアちゃん、今日で遅刻何日目なの?」

「んー多分二週間とか?」

「馬鹿言えお前ー、もう一ヶ月くらい遅刻してるぞ?」

「あれ? そうだっけ? うち覚えてなーい」

そんな会話を隣で繰り広げるルア。ルアはクラスメイトと仲のいい俗に言う陽キャ。それに比べて私はルア以外のクラスメイトとは業務連絡くらいしかしないのでは、と言うくらい喋らない。そう、俗に言う陰キャと呼ばれるやつだ。隣が騒がしいなと思っていると昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「あれ? もうこんな時間かぁ……みんなじゃあね〜」

すると、ルアの周りにいた人々はそれぞれの席に帰っていく。どうやら五限目の授業が始まるらしい。

「ねぇねぇルイ、うちさ五限目の教科書忘れちゃったんだよね〜、お願い! 一緒に見せて!」

遅刻してきた上に忘れ物までしたのか、コイツは。

「ダメって言ったら?」

「五限目の授業中ずっと寝る!」

授業中ずっと寝られては困る。という訳で教科書を一緒に見ることにした。


六限目の授業まで無事に終了し、帰りのホームルームも終わった放課後。

「ねね、ルイ、一緒帰ろー?」

パンパンになったカバンを背負いながらルアがそう声を掛けてきた。どうせ帰り道は途中まで一緒だし断る理由もない。だから

「ん、いいよ」

そう短く返事をした。


「ルアちゃんバイバーイ!」

「りんちゃんまたね〜」

「ルアさんまたねー!」

「しぃちゃんまた明日っ!」

校門を出るまでたくさんの人に声を掛けられていた、ルアが。ちなみに私に声をかけてくれる友達なんていない。いたとしてもルアくらいだろう。

「教科書ほんとーにありがとうね! すっごく助かった!」

ニコニコの笑顔でルアがそう言う。

「別に? ルアに寝られる方が困るし」

他愛もない会話をしながらお互いの家まで行く。すると、分かれ道になって、

「私こっちだから」

「あ、うちはコッチ、じゃあねルイ!」

そうして、お互いの帰路に着いた。


薄暗い階段を上がり、自分の部屋に行く。そして、大きく息を吸い込んで

「ただいま〜、るあ〜! 今日も学校頑張って来たんだよ、褒めてっ」

そのままベットにダイブして、その上にいたぬいぐるみを抱きしめた。このぬいぐるみは私自作の【るあぬいぐるみ】。いつも私を慰めてくれるスグレモノだ。また、ベットの向かいにある机に飾ってあるのは【るあフィギュア】。紙粘土で一本一本髪を作るのは大変だったが、完成した時の達成感は計り知れなかった。他にも部屋にはたくさんの自作【るあグッズ】がある。そう、私はルアのことが大好きなのだ。


私がルア大好きのルアオタクだということは誰にも言っていない。なぜかってそんなの決まっている。恥ずかしい、その一言に尽きる。だってこんなの知られてみろ……何を言われるのかたまったもんじゃない。という感じでまぁ、ルアオタクだと言うことはこれからも隠しておこうと思う。


「おはよー! ルイ!」

「もう午後だから英語でもこんにちはの時間帯だよ、ルア」

今日も遅刻をしてきたルアに言葉を返しながら昼食を摂る。ルアは「えー、別にいいじゃん、うちが起きたの十五分前だよ?」などと零している。ん、待てよ? 

「ねぇルア? 十五分前に起きたって言った?」

「うん、言ったけどなにか?」

確か、ルアの家から学校までは私が歩いて二十分はかかったはずだ。

「どうやって学校来たの? 早くない?」

「うちのウルトラスーパー瞬足にかかれば家から学校までなんて十分で着くね!」

「はぁ……?」

聞かなかったことにしよう。お弁当を食べ終え、次の時間の準備をしようとしたら、

「ねぇねぇルイ〜知ってる? 今年は七夕の日に流星群が見れるんだってよ!」

「あぁ、なんかテレビでそんなこと言ってたね」

昨日見たテレビを思い出す。天気予報士の人が流星群が何とかって言ってたな、そういえば。

「む、知ってた……じゃあさじゃあさ! これは知ってる? 七夕の日に落ちてきた流れ星にお願いごとすると必ず叶うっていう伝説知ってる?」

初耳の情報だった。

「へぇ、初めて知ったね、どこで聞いたの?」

すると、ルアは得意そうに

「ふふん、私の好きなユーチューバーさんが言ってたんだよ!」

それを聞いて聞いた私が馬鹿だったと思ってしまった。そうだ、ルアはこういうちょっとアホっぽいところもかわいいんだった。

「もう明日七夕だね〜! ルイは何をお願いするの?」

私は「うーん……」と唸る。昔は七夕のお願いが叶うものだと思っていたから将来の夢や懸賞が当たるようにと短冊に書いていたが、私ももう七夕なんてのが子供だましのものだというのは知っている。

「いい成績取れますように、とか?」

とりあえず無難な回答をしておく。本当の願いはルアとずっといることなんだけどね。

「えー! つまんないの〜私はねぇ友達とずーっと一緒にいれますように、だよ! あ、そうだ、言い忘れてた! でもね、お願い事にはとってもたくさんの力が必要なんだって、だから、何かを犠牲にしてでも叶える覚悟がないといけないとかなんとか……」

「ふぅん」

どうせ、迷信だろうし犠牲のことは気に留めなかったが、その友達の中に私が入ってたらいいな、そう思いながら私は席から離れロッカーに向かった。


「ルーイー! テスト結果どうだった?」

放課後、ホームルームが終わってすぐに目を輝かせたルアが聞いてきた。そういえば五限目にテストの個表が返ってきたんだった。そんなことを思い出し、無言で左側に個表を出す。その後ルアに渡したことを後悔する。

「ありがとっ! どれどれ〜ルイの点数と順位は〜ってええ?! 学年五番でクラス順位一番?! すご! 理科とか満点じゃん」

ルアは何も考えずに大きな声で私の結果を叫んだ。クラス中の視線がこちらに集まる。人に注目されるのが苦手な私は、パッとルアから個表を奪うと既に支度の終わったカバンを手に取り教室を後にした。後ろから「ごめんね、待ってよ! ルイ!」なんて声が聞こえてきた気がするが今日はごめん、一人で帰らせて欲しい。


「あら、おかえりルイ、ただいまの一言もないのね」

家に帰ると真っ暗なはずの家には灯りが点っておりそこから母が出てきた。

「ただいまお母さん」

仕方なく返事をする。なぜ母がいるのだ、普段は夜中になってから帰って来るはずなのに……

「ママね、今日は早く帰ってこれたの。急患がいなかったからね」

「そうなんだ、良かったね」

一刻も早く母の元から離れたかった私は足早に自分の部屋のある二階へ向かおうとする。

「ねぇルイ? 今日テストの結果返ってきたんでしょ? ママにも見せて」

今一番言われたくない言葉を言われた。

「ね、早く見せて?」

スっと個表を手渡す。そのまま二階へ行こうと思ったら

「ねぇ、何この結果」

マズイ、早く逃げないと始まる、捕まったらおしまいだ、早く、早く自分の部屋に……

「ルイ、今回のテストこの間より順番も点数も下がってるね、この間も一番じゃなかったのに、今回は順番、二番も落ちたの? 点数だってそう。この間のテストは三つ満点があったのに今回は一個しか満点がないね。しかも、英語なんて九十点じゃない。なんでこんだけしか点数が取れないの? ママいつも言ってるよね? テストでは一番を取れて当たり前だって。ママお医者さんなんだよ、なのになんでこんな結果なの? ママがルイと同じ歳の時はテストでは毎回一番だったよ?」

うるさい。

「なんなら全国模試でも毎回十番以内だったのよ?」

うるさい。うるさい。

「あなたも将来はママの病院を継ぐことになるのよ?」

うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。

「だからわざわざ医学科に強い私立高校に入れたのに」

うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。

「学費だって安くないし、ルイに今までいくら掛けたと思ってるの?」


「うるさい」


思わず、声に出てしまった。

「はぁ、何? ママに対してその態度。ねぇ、ママはルイの為を思って言ってるのにあなたはそんな態度を取るの? ねぇ、どうしてそんな子に育ってしまったの? ねぇ、ルイ……」

ずっと愚痴愚痴言い続ける母に嫌気が差した私は、

「もういいよ」

それだけ言い残して母の制止の声も聞かずにカバンを持って走り出した。行く宛なんてない。でも、もうあの人の所にはいたくなかった。


暑い。ただただ暑い。当然だ、今は七月。夏の真っ盛り。暑くないわけが無い。それにしても無鉄砲に飛び出しちゃったな、でもあんな母親の話を聞いてたら私の方がおかしくなりそうだった。

「はぁ、今日どこで寝ようかな……ありきたりだけど公園か、警察に補導されないといいけど……」

そんなことをブツブツ呟きながら歩いていると家から二〜三番目に近いであろう公園に着いた。このまま公園で夜をやり過ごすためにどうしようと考えていたが、


「あれ〜? ルイ? こんな所で何してるの?」


聞こえるはずのない声が聞こえたことで、今までの思考は全て吹き飛んだ。


「ルア……?」

「はーい! ルイの隣の席でいつも爆睡してるルアでーす」

「なんで……ここに?」

「んー流星群見に来たの!」

なんて事ないように答えるルア。

「ちょちょちょ、ルイ急にどうしたの?」

「え、何が……」

「ルイ、泣いてるよ?」

そう言われて初めて自分の頬を拭うと何かで濡れていることに気づいた。

「あれ……なんで……私、何も……」

一生懸命泣き止もうとしても涙はあふれるばかりで止まることを知らない。悲しいわけでもないのになんで。

「よーしよし、辛かったねぇ、いいよー今は好きなだけ泣けばいいよ」

そんな声が聞こえたかと思うとなにか温もりを感じた。あったかい。ルアに抱きしめられていることに気づくまで数秒かかったが、気づいた途端に更に涙が止まらなくなった。優しく撫でてくれるルアに身を預けて子供みたいに泣いた。泣き止んでもしばらく頭をなでつづけられルアは名残推しそうに手を離すと

「もう大丈夫?」

「うん、もう大丈夫、ごめん」

そう告げると

「ふふん、十分に感謝したまえっ!」

ドヤ顔でそう言っていた。

「それで、何があったの?」

「それが……」


「ふむふむ、それはやな話だねぇ、ルイのお母さんも厳しいんだね」

「うん、あの人少しヒステリックなところあって……」

そうやっていつものことを話した。いつもは仕事で家にいないのにたまに家に帰ってきては成績に関して文句を言ってくること、テストで一番以外をとったら相当怒られること、少し帰りが遅かっただけで何をしていたのか追求されること……全てルアに話した。

「それはひどいねぇ……子供は自分の所有物じゃないってのに!だいたいねぇ……」

ルアはある意味私よりも怒っていた。でも、いつもの怒り方とは少し違うような気がした。なにか、遠くのものを見ているように焦点がどこにも定まっていない。

「ルア、もういいよ。私のために怒ってくれてありがとう」

私は少し怖くなり、ずっと愚痴をこぼし続けるルアを軽くなだめた。するといつも通りの表情で

「そう? 辛くなったらまた言うんだよ?」

「うん、ありがとう」

そうやって笑い合っていると

「あ! 見て! 流れ星!!」

そうやって満天の星空に向かって指さしたルアが言った。するとルアが指を指したのを合図のように大量の流れ星が星空を駆け巡った。

「わぁ、きれい!」

「うん、本当にきれい」

二人で感動していると

「あ! お願い事しなきゃ!」

ルアはそう言ってぱちんと両手をあわせた。私もそれに倣ってそっと手を合わせた。


ールアとずっと一緒にいられますように。



その後私はルアと別れて家に帰った。ルアには相当心配されたが大丈夫と言って帰路についた。

「ただいま」

良かった。返事はない。もう夜勤に行ったようだった。今日はもう遅かったしお風呂に入ってそのまま沈むように眠りについた。


その次の日から、変なことが起き始めた。

学校で休む人が増えていったのだ。しかもその人達は一度休んだきり登校してこない。先生も原因はよくわかってないらしく、体調不良と言っていた。無論、私は一度も会話したことのないような人たちだったがこんなに大勢の人が休んでいると流石に気になってしまう。また、この街では失踪事件も相次いでいるとニュースキャスターが言っていたことを思い出した。しかも街の人達が消えるにつれてルアの口数が減ってきている気がする。なにか関係があるのだろうか? 全て私の気の所為ならいいんだけど……

そしてその異変は私のもとにもやってきた。


不意に、家の電話が鳴った。

「宮乃です。」

「あ、私県立病院の◯◯と申します。あなたのお母様のことで少しお話がありまして」

県立病院、母の勤務先だ。

「母に何かあったんですか?」

電話越しの相手にそう尋ねると、少し声のトーンを落として言った。

「あなたのお母様が倒れました。原因は過労だそうです。」

「え」

母が一生懸命働いていたのは知っていたが、過労になるまで働いていたのは知らなかった。

「至急、県立病院までまでお越しいただけますでしょうか」

「は、はい」

「受付で名前を言っていただければお部屋まで案内します。では、失礼します」

それだけ残して電話が切れた。そして私は自転車を走らせた。


「すみません。ここの病院で勤務している宮乃の娘です。先程、母が過労で倒れたと聞いて来ました」

病院につき、受付で電話で言われたことを伝えると

「あぁ、宮乃さんの娘さん……わかりました。ついてきてください」

言われたとおりに看護師についていく。何回か階段を登ってしばらくしたところで看護師がピタリと足を止め、

「ここです」

淡々と告げられた。中に入るとすぅすぅと寝息を立てている母が点滴を刺された状態でベットの上に寝かされていた。

「あの、宮乃さん。お母様はきっと数時間したら目を覚ますと思われますが、どうしますか?」

看護師に尋ねられ

「お気遣い感謝します。でも、私は帰らせてもらいます。失礼します」

母の起きるところに立ち会った所で私にメリットはない。

「わかりました。お母様が起きたら連絡させていただきます。気をつけて帰ってください」

「はい、ありがとうございました」

そのまま来た道を帰り家に帰った。


次の日も学校に行く。行ったらまた誰かが学校を休んでいる。そして、口数の減っていくルア。何が起きているのかわからない。私の母が倒れたのも関係しているのだろうか? 

「……イ」

なんでここ最近になってこんなにもたくさんの人が? 

「……ルイ」

今は別に感染症とかが流行っているわけでもないのに? 

「ルーーーーイ!」

耳元で鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらいの声で叫ばれ、心臓が飛び出るかと思った。

「ど、どうしたの……ルア」

「どうしたのじゃなーい! ずっと呼んでるのに反応しないんだもん」

ルアは若干怒っているようだった。

「ご、ごめん。なにか用?」

「用っていうかぁ……ずっと怖い顔してなにかブツブツ言ってたから大丈夫かなって思って……」

「え?」

「なにかあったの? 本当に大丈夫?」

心の中を読まれた気がしてびっくりした。

「えっと……」

口をごもらせていると

「わかった、放課後に話を聞かせてもらおうか」

何がわかったのかはわからなかったが話を聞いてもらえるのは悪くないのかな? 


「ごめんね……部活でおそくなっちゃった」

そういった通り放課後、というよりはもう夜という感じだった。

「ううん、全然大丈夫」

「ありがと、で、何があったの?」

聞かれたから正直に学校のみんなが常に休んでいる人が増え続けていることを疑問に思っていること、母親が急に倒れたこと、それについてもしかしたら関係があるのかもしれないと思っていること。ルアの口数が少ないことは伝えようか迷ったがやめておいた。

「そうなんだ、ふぅん」

あれ、なんか思ってた反応と違う? 口数が少ないことも聞いてみるか

「あとさ、少し気になったことがもう一個あってさ」

「うん、なぁに?」

「なんで最近口数少ない気がするんだけどさ、これも、気の所為?」

するとルアはうっすら笑って

「気づいてたんだ、そっかぁ、ねぇねぇ、あの日の夜うちが流れ星に何をお願いしたのか知ってる?」

「え、そんなの知らないよ、急にどうしたの?」

なんの因果関係があるの、なんで急にこんな質問してくるの? 

「何か、関係あるの……?」

「うちね、ルイとずーっと一緒にいたいってお願いしたの。うちのお願いはかないそうだね」

意味のわからないことを言い始めた。

「なんで? なんの関係が……」

「うちの周りってさぁ、なんか人がいっぱい来るんだよね」

どういうこと? 

「だから、たくさんルイとお話したいのに全然話せないの」

だからってこんなこと

「ルイだってうちのこと大好きなのになんで話しかけてくれないのかなぁ、ってずーっとおもってたんだよ?」

大好きって何、なんで知ってるの?

「ねぇねぇ、なにか喋ったら? ルイ。」

そう言って一歩近づいてくるルア。漆黒の瞳がこちらを見つめてくる。

「どうしたの、あ、もしかしてうちがなんでルイがうちのこと大好きなこと知ってるのか知りたい? 知ってたんだよ、全部。ふふん、これ見てよ!」

そうやってルアはスマホを出すとポチリとなにかボタンを押した。そしたら何やら音声が流れ始めた。

『ただいま〜、るあ〜! 今日も学校頑張って来たんだよ、褒めてっ』

「え、これって……私の……」

「まさか〜聞かれてると思ってなかったでしょ〜もしかして、思いは一方通行とかだと思ってた? ざんねーんって言うのも違うのかもしれないけどね笑」

笑いながらさらに近づいてくるルア。

「いやっ!」

思わずルアから離れた。

「もぉ、なんで離れるの。ちょっと待ってよ〜」

そう言うと、全力で私の方に走ってきた。私は避けられずにルアに抱きつかれた。

その瞬間私のみぞおちに鈍痛が走った。

「あぁ、うぐぅ……なん、でぇ」

ルアにナイフで刺されていた。

「痛い? ねぇ、痛い?」

何か言葉を発する余裕なんてない。

「ねぇルイ。星が言ってるよ……もう全部叶ったって」

ルアは微笑み、ナイフを胸に沈めた。

その刃は、私の体も同時に裂いていく。

「……これで最後のお願い。ずっと一緒にいられますように」

最期に笑ったルアの顔は今まで見てきたルアの中で一番幸せそうな顔をしていた。


流れ星が空を裂くたびに、視界が白く揺れる。

二人の影が校舎に重なったその夜、誰もいなくなった教室の窓から見える星はひときわ輝いて見えた。


『続いてのニュースです。七夕の夜、女子生徒二人が校内で死亡しているのが発見されました。警察は無理心中とみていますが、流星群の夜に起きた不可解な出来事に、地元では様々な噂が広がっています――』

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あなたと願いと星屑と 白石澪 @Iam_banana_877

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