とあるぼくっ子勇者パーティーの魔王討伐記録

八月森@書籍発売中

とある魔王の城にて

「とうとう、ここまで来れたね……」


 禍々しい威容を誇る巨大な建造物――魔王の居城。その内部に侵入し、最奥にある巨大な扉の前に辿り着いたぼくは、ここまでついてきてくれた仲間たちと顔を見合わせ、無言で頷き合う。そして、ゆっくりと扉を開いた。


 扉の奥には広い、薄暗い空間が広がっていた。毒々しい紫色の炎が壁面にいくつもともり、かろうじて部屋の内部を照らしている。


 入口からは赤い絨毯じゅうたんが一直線に奥まで伸びていた。その先には小さな階段があり、階段の上にしつらえられていたのは――玉座だ。


「……我が部下共を退け、よくぞこの城まで辿り着いたものだ、勇者一行よ。歓迎しようではないか」


 玉座の上から尊大に声を降らせてくるのは、この城の主――魔王。人々を脅かす魔物たち、それらを統べる王だ。ぼくは剣を握る手に力を込めながら、その諸悪の根源に拒絶の言葉を返す。


「歓迎なんて必要ないよ。ぼくらが望むのは――きみの首だけだから」


「クク、つれないな。我は貴様らを待ち侘びておったというのに」


「ぼくたちだって、きみの顔を拝むのを心待ちにしていたよ。だけどそれは、言葉を交わすためじゃない」


「刃を交えるためだと、そう言うわけだな?」


「そうだよ。きみたち魔物に虐げられた人々の嘆き……犠牲になった仲間たちの無念……その全てをこの神剣に込めて……魔王、きみを打ち倒す! 覚悟してもらうからね!」


「いいだろう。ならば貴様らの力、この我が直々に見定めてやろうではないか! さあ――かかってくるがよい!」


 魔王の手に赤黒い炎が宿り、それが、ぼくらに向けて解き放たれた――



ゲームマスター(以下GM):それでは、ここから先制判定に移ります。こちらの先制値は20。


槍戦士:(コロコロ(サイコロを振る音))……21! 結構ギリギリ!


GM:ぬわ、取られた! そちら先制です!


僧侶:まずは接敵する前に対象を四人に拡大して【フィールド・プロテクトⅡ】! 受けるダメージが-2されます!


勇者:ありがとう!


魔術師:こっちも、前衛が接敵する前に魔術を撃つ。【エナジー・ジャベリン】を《魔術拡大/確実化》で、達成値は……(コロコロ)確実化したのに低い!?

18!


GM:それは抵抗した。


魔術師:ダメージは半減して……16点。


GM:抵抗してそれかよ!


槍戦士:補助動作で魔王に【パラライズフォグ】のAカード。回避が-2です。


GM:【パラフォグ】嫌い。


槍戦士:制限移動で5m前進して錬技、《リュンクスアイ》で命中アップ。そして聖槍の特殊能力、《魔力の刃》を宣言。ダメージが魔術ダメージに変更されます。すかさず槍で攻撃! 達成値は(コロコロ)、23! 当たれば25点防護無視!


GM:ぬう……【パラフォグ】分で当たってる。


勇者:そしてぼくの番!《マッスルグリズリー》《インセクトスキン》《リュンクスアイ》の練技3点セットを使用! 筋力・防護点・命中強化! それから【クリティカルフラッシュ】のSカードで威力増加! さらに《必殺撃》を宣言してクリティカル値を下げる! そして制限移動で前進して……神剣〈パルヴニール〉で攻撃! この剣はプラス3の魔剣相当でクリティカル値-1、さらにクリティカルする度に威力が上がっていくよ! というわけで《必殺撃》と合わせてクリティカル値は8!


GM:ぐ、ぐむぅ……来い!



勇者「人々の無念が、希望が、ぼくの背中に乗ってる……ぼくに力を与えてくれる! 喰らえ、魔王! これが、神剣の……ぼくたち人類の一撃だ!!」



勇者:命中判定ダイスロール! (コロコロ……サイコロは2つとも1を上にして止まる)……嘘、1ゾロ!?


GM:よっしゃー!



魔王(GM)「フハハハハ! 勇者よ、どこを狙っている! 我はここにいるぞ――」



勇者:[運命改変]! 人間は種族特徴で1日1回サイコロの出目をひっくり返せる! 1ゾロの反対は……6ゾロ!


GM:グワーッ!? ええい、2D振って12以上の目が出ればかわせる……(コロコロ)出るわけねーだろ!


勇者:ダメージ決定のダイスは……(コロコロ)(コロコロ)(コロコロ)


GM:ちょっと待て!? 何回振ってる!?


勇者:クリティカル……クリティカル……クリティカル! すごい、まだ回ってる! ……あ、さすがに止まった。諸々修正足して最終ダメージは……159点!


GM:……は?


一同:(驚いた後に爆笑。そして歓声)


GM:ええと、防護点で10点引いて……それでも149点!? ここまでに喰らったダメージと合わせて……倒れた! 


一同:やったー!


勇者:つまりこうですね!



 ――外した。魔王はそう思ったはずだ。


 だがそれは誤り。今のはフェイント。本物と見紛うほどの虚の一撃だ。ぼくは先ほどより一歩踏み出し、今度こそ全力で剣を振るう。


 それは、理想的な身体の運び。会心の剣筋。肉を裂く一瞬だけの、けれど確かな手応えと共に、魔王の肉体に刃の軌跡が刻まれ……遅れてその傷痕から、赤黒い液体が激しく噴出する。


「……見事だ、勇者よ」


 自身の命に届いたと、瞬時に理解したのだろう。称賛の声だけをその場に残し、魔物たちの王はゆっくりと仰向けに倒れていった。赤い絨毯に血の赤が染み込み、さらに色濃く染め上げていた――



GM:うん、演出はかっこいいしありがたいんだけど……嘘だろ……ボスがこんなあっさり……(泣)


槍戦士:まぁまぁ、こんな日もありますよ。


僧侶:そうですよ。勇者さまの出目が爆発しなければ、こちらがやられていた可能性も高かったんですからね。魔物知識判定でデータ見た時は、ちょっとこのGMどうしようかと思いましたよ。


魔術師:それとも、前哨戦だったことにするか?「クク、そやつは我の影だ」つって真の魔王が出てくるとか。


GM:うわ、超心惹かれる! ……やっていいかな?


勇者:ダメに決まってるでしょ(真顔)


GM:ですよねー……チクショウ! そんなわけで皆さんは魔王を見事に討ち取り、世界に平和を取り戻すことができました! というわけで本日のセッションは終了! お疲れ様でした!


一同:お疲れ様でしたー!


勇者:GM! 経験点ください経験点!


GM:そうですね。それでは本日の経験点は――……



(ブツン(ここで録音の途切れる音))

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