『ドラネコ』

宮本 賢治

『気になるアイツ』

 旦那からメッセージ。

『もうちょっとで帰るよ。チュッ♡』

 う〜ん、チュッは余計だな。

 けど、言いつけを守って、エライぞ♪

 2人でガンバロ〜!と買った、建て売りの小さなマイホーム。

 ネコの額みたいな庭が付いてる。

 晴れた日の夕方。

 今シーズンは2回目。庭で七輪の火を起こした。

 わたしは職場が近いから、ママチャリ通勤。旦那はマイカー通勤。

 さて、旦那が帰ってくるまでに夕食のメインを準備しよう。

 秋と言えば、サンマ。

 ソレも、七輪で焼く炭火焼きだ!

 買ってきたサンマ。クチバシは黄色く、お目目もキラキラ。まあるく太った生の新サンマ。

 塩強めに振って、水を出し、秋の風に当て一干し。

 サンマが秋風を感じてる間、わたしは缶ビールをプシッ!

 炭火を起こして、大根も下ろしたんだから、ちょっとくらい、ご褒美良いよね。

 ウチの魚焼き網は、2枚の網を重ねて、その間にお魚を入れるタイプ。ひっくり返すの簡単♪ 網には酢を塗る。すると焼けた皮が網にくっつきにくくなる。

 サンマを焼き始めると、現れた。

 気になるアイツ。

 真っ黒なネコ。

 真っ黒なキレイな毛並み。

 緑色の瞳。

 匂いにつられるんだろね。

 七輪でサンマを焼くと現れる。

 この前も現れた。

 庭の隅にチョコンと座って、こっちを見てる。

 ジジジっとサンマが焼け始めた。

 炭火に脂が落ちる

 ジュワっ!

 白い煙が上がる。 

 黒ネコ。

 目をつむり、クンクンとしてる。

 焼き上がったサンマが3匹。

 網から1匹、皿に移す。

 黒ネコの目の前に皿を置く。

 黒ネコは逃げることなく、わたしの顔を不思議そうに見てる。

「わたしのオゴリだよ」

 黒ネコは遠慮がちにパクっと焼けたサンマをくわえた。スクッと顔を上げ、わたしの顔を見たら、庭を抜けて、走り去った。

「お魚くわえたドラネコ〜♪」

 ワンフレーズ歌う。

 庭から見えるガレージに車が入ってきた。

 旦那様のお帰りだ。

 ジャストタイミング。

 今日のサンマもきっと美味しいぞ。

 わたしは焼き網を持って、ベランダからリビングに入った。


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『ドラネコ』 宮本 賢治 @4030965

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