第4話

合宿で1年が2泊すると3日目、2年の亮と伊達が、海外から帰国し姉の家に行っていた翔大と合流して薪蔵に来て全員揃った

ラウラは前夜洗い物をしながらレイに

「僕はレイちゃんが好きだ、付き合ってほしい」

と打ち明けていた

レイも合宿で優しく真面目なラウラを更に好きになっていた

『ラウラならお兄ちゃんもきっと良いって言ってくれる』そんな気がして

「ウン」

そう答えた、今までレイに近づく男を蓮はいつも

『アイツダメだ、真面目じゃない、』とか『レイの為にならない』とか言って付き合わせなかった

レイも従ってきたが今回は翌朝蓮に事後報告した

「ラウラはいい奴だ、真面目だって言ってたよね、昨日付き合う約束したよ、ラウラならいいよね?」

レイは嬉しそうに、確信する様に蓮を見た

蓮には反対する言い訳が見つからなかった

だが なぜか心が痛かった

ラウラが好青年なのはわかっているし お似合いだとも思う、しかし取られる様な気がした

レイが離れて行く不安を感じた

蓮の気持ちを知らないレイは嬉しそうに色々話したそんな時2年が来た、そして浮かない顔の蓮に亮が「どうした?」

と聞いた、蓮はラウラと付き合う事になったレイが心配だとだけ話した

「父親か!」

何も知らない亮は笑って言ったが、蓮の目がいつもと違うのも感じ取っていた

その日は最後の夜なので部員全員で焚き火をした

蓮とレイの両親 辰哉と静子がみんなの所に来た

ラウラは両親に改めて

「レイさんとお付き合いさせていただきます」

と真面目な顔で宣言した

「レイちゃんには父親2人居るから気を付けろよ」亮は蓮を見ながら言った

辰哉と静子はドキっとした、 翔大が

「蓮パパだよ、厳しめだぞ、俺がレイちゃんと付き合いたいと言ったら凄い顔で速攻駄目だ!って言われたんだから、まるで保護者だよ」

と言うとみんな大きな声で蓮を茶化し、笑った

だが辰哉と静子は動揺が伝わらないか心配になった

亮はほぼ一部始終を冷静に見ていた

恥ずかしそうにラウラと見合うとレイ、

そんなレイを寂しそうに眺める蓮、

そして ただならぬ雰囲気の両親の様子、

さらに、そんな茶化したことを言っておきながら、煙を見ながら深刻な表情で何かを考え込む翔大、

亮は常に一歩引いた所からみんなを見ていた

そんな亮は蓮と何となく気が合った

内気でおっとりした性格の蓮と 賢く感の鋭い亮

全く違う感性がお互い羨ましくもあり、心地良くもあるようだ

そんな亮はよく世界遺産『首里城』火災の話を蓮にしていた

幼い頃見た首里城は美しく、まるで別世界への入り口を感じさせる建物だったのに、あの火事で崩れ落ちて行く光景と、地元の人の悲しむ悲壮な声のニュースが頭からも目からも消えないのだ

ニュースを観た時亮は声を上げて泣いたと言った

「山梨の世界遺産はもっと本気で山梨の人が守るべきだ!いつ何が起こるか分からないんだ、みんな無関心すぎる!有るのが当たり前じゃ無いんだ」

と蓮にハッパを掛けた

「今 世界遺産じゃ無くても、山梨には素晴らしい景色が沢山有る、それを地元で守らなきゃ!」

と言って色々な場所をリストアップして、蓮に提案してくれた

蓮も山梨の良さを守る為に何かやらなきゃと動いていた、しかし今日はレイとラウラの事で頭が一杯で、亮の言葉が入って来なかった

もう1人 蓮を見ている目が有った、 辰哉だ

辰哉は蓮がレイを心配する姿をいつも見ていた

微笑ましくも有ったが、まさか本当の事を知っているのではないだろうなとの心配も少し持っていた

『そんな事は無いはずだ、入学時の戸籍謄本は自分が取ったし、戸籍には母違いの兄弟として載っているが、2人共静子が封をしてから渡したんだから』

自分に言い聞かせるように心で呟き、安心させる様

に静子の背中をポンポンと叩いた


亮は蓮との話を諦めて、缶ビールを持って反対側に座る翔大を見ていた

ジッと焚き火を見つめ何か思い詰めている様だった伊達もキムと喋りながら翔大が気になっていた

そしてその後2人は翔大を挟んで座った

「あの国に行ってたんだろ?なんかあったのか?」 

伊達が聞いた


翔大はいつもバイトのお金が貯まると、とある国のスモーキーバレーと呼ばれる場所に行った、

そこに生きる子供達から 生きる厳しさと逞しさを感じ、何とか出来ないものかと思っていた

そして1人の男の子と知り合っていた

家も家族も無く ただ1人お金になる金属を探し、

その日の食費を稼ぐダン君

ガスと煙の中 タオルで口を覆い、傍に来た翔大に

「空気が悪いから来ない方がいいよ」

と手振りで教えてくれた

「君だって駄目だろ?」

と簡単な英語で話すと通じたが、タガログ語で何やら話しながら人懐っこく近付いて来る

翻訳機で調べながら会話をした

『神のご加護が有る、自分の食事分くらいは自分で稼がなきゃ』と言うことだった

そして更に『神にご加護を願うなら自分も受けられる生き方をしなきゃ、そうでしょ?』そう続けた

そして汚いタオルを口に巻き直してピースをした

翔大は胸が痛かった

ここで鉄屑を拾う事は神のご加護を受ける事に値するのだろうか?

ダン君はここで鉄屑を拾い スモーキーバレー入り口の換金屋で換金する、正しい換金率か分からないがそれしか無いのだ

そのお金で1日1回の食べ物を買う、そして傍の小屋で家の無い子らと共に寝る

そこはキリスト教のボランティアが最低限の奉仕をしながらキリスト教の布教をする所だ

中には万引きする子や観光客にタカる子もいるが

ダン君はしない、苦しくてもしない

「神様が見ているからからね、そんな子にはご加護がないよね、」

そう言って笑う

おそらく大統領の名前も知らないし、この国で自分らがどんな立場に見られているかも知らないだろう

ただこの場所で祈り感謝し、食べられる事と雨風を凌げる小屋が有る事を幸せと感じる一生を送るのかと思うと 翔大は涙が止まらなかった

何かが違う!

翔大は持っていたキャラメルを2人で分けて食べた

ダン君は手を合わせて

「ほら、神のご加護でこんな美味しいお菓子をお兄ちゃんがくれた、神様今日も幸せです」

と感謝の祈りを口にした

翔大はダンを抱きしめた、それしか出来なかった

それが翔大の活動の発端だった

あぁ…

俺には何も出来ないのか…

何もしなくていいのか…


焚き火の煙を見て、ダンのいるスモーキーバレーの臭い煙を思い出し 胸が苦しくなっていた翔大は

「俺は今迄 親や姉貴夫婦に甘えきって生きて来た

バイトだって 自分が稼いだんだから好きに使って当り前だと思って 無駄に使ってきた

だけど、あの国のあんな子供達を見て、そんな俺でも何か出来ないか、何とかしてやりたいけどどうすりゃいいのかって考えて…胸が苦しいんだ」

焚き火の火を見ながら言った目は潤んでいた

「サークルのパソコンで発信し続けろよ、その気持ち、何処かに答えが有るかも知れない、」

「1人で抱え込むなよ、同じ気持ちの人も居るかも知れない、何でも手伝うよ」

亮と伊達はそう言い、翔大と缶ビールで乾杯した


その頃ラウラはママに電話していた

サークルに好きな子がいる事は伝えていた

母親は積極的で開放的な性格なので、大人しいラウラをいつも応援してくれていた

告白してオッケーをもらい、両親にも会ったと言うと、自分達にも会わせる様にと連休明けに勝手に予定を組んだ

「ママはいつも強引なんだから」

ラウラはそう言ったが本心は嬉しかった

喜んでくれた事も 会ってくれると言った事も、

忙しいはずなのに、本当に自分の事を考えて行動してくれるママに感謝した


大輔は先輩達に夏菜の一大事を話していた

「僕の構想を忠実にアニメにしてくれる夏菜って子が、アニメ制作会社に認められて 新しいアニメの企画をする部署で働き出したんだ、2人の夢が一歩進んだんだ、だから僕も頑張るんだ!」

そう言って、自分の事のように夏菜の採用を喜んだ

「僕は動物が好きだから主人公は絶対動物にする」

目を輝かせて話す大輔に亮は

「奈良は行った?奈良には神の使いと言われる鹿がいるよ、昔ね…」

奈良の鹿がなぜ神の使いと言われているかの話をした、大輔は真剣な顔で話に聞き入って、

「夏休みに奈良の鹿さんに会いにいく!」

夏菜とも話してテーマにしようと思いながら、昔映画館で見た シシガミの事を思い出していた

あぁ…

夏菜さえいれば僕の夢は形になるんだ

僕はまだまだ勉強しなきゃ、

夏菜のアニメが映画館で見れるような凄い内容を作り込まなきゃ…

ずっと先だろうけど叶ったら夏菜と結婚したいな…

僕は夏菜にとって最高のパートナーになりたい…


みんな前に進もうとしていた

         明るい将来を夢見て……


                つづく



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