陰キャラプリンセスのSNS相談【1分間小説】

楠本恵士

軽い気持ちの一時的な同情心だけで、他人の相談に乗るな!

 その女性はSNS依存症の、陰キャラだった。

 彼女は四六時中、SNSで誰かに助けを求めていた。

《誰か、あたしを助けてください……あたしの相談にのってください》


 一部の興味を持った人たちは、彼女にアドバイスをしたり、親身になって相談を聞いてくれたりした。

 悪意や下心がある者たちも寄ってきて、陰キャラな彼女の相談にのるフリをした。

《あたしの相談に乗ってください》


 いつしか、SNS界では彼女は『陰キャラプリンセス』と呼ばれるようになり……生身の人間なのか、実体のないAIなのかわからない噂の存在になった。


 彼女が持ちかけてくる相談を誰もが敬遠するようになって半年──ある、男性が真剣に彼女の相談にのってくれるようになった。

「話してみて、どんな相談でも最後まで逃げない」

《ありがとう……あなたは人間? それともAI?》

「人間だよ……正真正銘の」

《良かった》


 陰キャラプリンセスと男性は、相談と会話を通して、どんどん親しくなっていった。

 やがて、彼女から込み入った質問が、男性にされるようになった。

《ご家族はいるんですか?》

《将来の夢は?》

《趣味とかは?》


 そのつど、男性は真面目に答える。

 やがて、彼女の質問はかなり男性の内面に入った質問に変わってきた。

《職業は?》

《年収は?》

《一人暮らしですか?》

《貯金はどのくらいありますか?》


 そして、極めつけの質問が陰キャラプリンセスから出てきた。

《相談にのっていただき、ありがとうございます……あたしと、結婚を前提にした、おつき合いをしていただけませんか》

 数分間の沈默後──男性は陰キャラプリンセスの申し出を受け入れた。


 ◆◆◆◆◆◆


 陰キャラプリンセスと、ネット上でつき合うコトになった男性は、次第に不安になってきて親友に相談した。

「どうしよう、もしかしたら陰キャラプリンセスは、詐欺者じゃないだろうか?」

「女の子の相談にのったなら、最後まで責任を持て……オレは陰キャラプリンセスは、信用してもいいと思うぞ……たぶん」


 ◆◆◆◆◆◆


 一年が経過した──陰キャラプリンセスが、思い切った質問をしてきた。

《結婚式はどこでやりますか? 挙式の予算は?》

 さすがに男性が怖くなってくると、陰キャラプリンセスの質問が一変した。

《あなたに相応しい、陰キャラ女性は……この方々です『結婚式場マッチングアプリ』のご登録ありがとうございます》


 陰キャラプリンセスの正体は、マッチングアプリAIだった。

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