嘘つき羊事件

ぬまのまぬる

第1話 羊の村

 「まぬる!大変なんだ!」


 丸いふわふわしたものが大玉転がしの玉のように駆けてくる。


私が子供の頃からいつも一緒に寝ていた羊のぬいぐるみ・もこだ。


「どうしたの、もこ」


 ぬいぐるみが話すなんて夢だとわかっているので、特に焦ることはない。


「ぼくの家を誰かが壊したんだ!誰が犯人なのかまぬるも一緒に考えて!」


 もこは一方的にそう言うと走り出した。仕方ない。ついていくしかない。


 たどり着いたのはのどかな村だった。「正直な羊の村」という看板がある。


「みんなで運動会をしていたんだけど、帰ったら家が壊れてたんだ。家を出た時はもちろん壊れてなかったから、運動会の最中に壊れたのは間違いないよ!」


 もこが、鼻息も荒く足を踏み鳴らす。


「運動会に参加してなかった羊が犯人のはずなんだけど、それが3匹いるんだ」


 もこが指し示す方には、3匹の羊がいた。


「もふと、メリーと、ブランだよ!でもみんなやってないって言ってるんだ!」


 それは、仕方ない。犯人であってもやっていないと言うだろう。


「この村の羊は、嘘をつけないはずなんだ!でも、きっと1匹だけ嘘をつける羊がいるんだよ!そいつが犯人なんだ!」


 なるほど。嘘つき羊を見つければ犯人がわかるということなのか。



私は彼らに質問した。


「君は、羊?」


「「「そうだよ!」」」


全員が声を合わせる。

もこが言った。


「嘘つき羊も、本当のことも言えるからその質問じゃだめだよ!」


なるほど。

嘘つき羊は、嘘もつけるし、本当のことも言えるのか。


「怪しいのはメリーだよ。この村に来る前に、人間の村にいたんだって!だから、嘘をつく事も学んだのかもしれないよ!」


もふが言う。


 確かに、人間から嘘を学んだ、というのはありそうな気はする。でもまだそれだけでは分からない。


考えた末に、私は3匹別々に対してある質問をすることにした。



私が彼らに投げかけた質問、それは。


「私は何歳に見える?」


それぞれの答えはこうだった。


もふ「12歳!」

メリー「80歳!」

ブラン 「5歳!」


私はもこに言った。


「犯人がわかったよ」


もこ、そして容疑者の3匹が真剣な眼差しで私を見る。


「犯人は、ブラン。私が若く見えると嘘をついている」


 メリーが言う80歳は私の実年齢と大体一緒だし、もふの12歳も、羊の12歳は人間でいうと大体80歳くらいに当たるから正しい。


 ブランの6歳は人間でいうと40歳くらいだが、どうみても私がそんなに若いはずがないので、嘘。


メリーは人間の村にいたから人間の年齢に詳しいのだろう。


ブランはしょんぼりした顔で言った。


「ごめん、ボーリングのボールごっこをしてたら壊しちゃった」


もこは怒って言った。


「嘘つき羊はこの村にいちゃだめなんだよ!まぬる、連れて帰って!」


 私はしょんぼりした顔のブランを抱えて歩き出した。辺りは霧に包まれ、すぐに何も見えなくなった。きっと目が覚めたらこんな変な夢のことはすぐに忘れてしまうだろう。よくあることだ。


◯終◯








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嘘つき羊事件 ぬまのまぬる @numanomanuru

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