「シュレーディンガーのあの子」

藤崎

第1話「紙袋の少女」

神梟なかみは、生まれたときから紙袋をかぶっていた。


なぜかはわからない。


無理があるけども、なぜかはわからない。


親も、親戚も、誰もその理由を教えてくれなかったし、彼女自身、自分の顔を見たことがない。


お風呂どうしてんだとか、そういう概念はない。


これは、ない。


そういうのはない。


鏡の前に立つと、紙袋の下はただの暗闇。


誰もが「なかみちゃんの顔は見えないもの」と当たり前のように受け入れていた。


なので、キミたちも自然に受け入れてほしい。


中学一年生の春、なかみは新しい学校生活にドキドキしていた。


紙袋のせいで目立つのは慣れっこだったが、友達ができるか不安だった。


そんな初日、学校一のイケメン、


池田メンディに突然呼び出された。



「神梟なかみ、俺と付き合ってくれ!」


メンディは長身で、キラキラした瞳と完璧な笑顔の持ち主。


リアルキン肉マン消しゴム(略してキン消し)と呼ばれ


女子生徒の憧れの的だった。


なかみは自分の顔を知らない。自信がない。


「自信はないが実力はある」


これは、故・菅原初代(大食いの人)の名言であるが…


こんなイケメンが自分を好きになるわけがないと思った。



「ご、ごめんなさい! 私、ムリです!」


なかみは逃げるようにその場を去った。



メンディは呆然と立ち尽くしたが、その瞳には燃えるような執着が宿っていた。


彼はフラれたことがなかったからだ。


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