赦してやるから懺悔しろ
11.だってオタクの寄せ集めだもの、この文芸部
結果。
外した缶バッジもその他のグッズ達も押し入れへ大事にしまい込んで、私は私の十年の恋を肯定してあげる事にした。
白より黒が似合う貴方。白を纏えどそれでも憎らしいくらい美しい貴方。私を置いて幸せになった貴方。私は、貴方の幸せを今は肯定しません。だって大好きなんですから。
嘘ばかり吐いてきた彼女へ倣って、私も一つ嘘を。数年使ったアカウントで打ち込むたった五文字、そこに拍手の絵文字を添えて。指はとっても軽やかに動いて、送信の二文字の上へと飛び乗った。ようやく悲しみの海の浅瀬まで、私は浮かび上がる事が出来たのだ。
私はまだオタクであるし――。
「……来たね」
「待ってたでござるよ」
「あら、お菓子食べる? 自カプのクリアファイル買ったらいっぱい貰えたの。遠慮しないでね」
「逆ですよぉ先輩」
「オタク的倒置法よ……ね、梢部長」
「ふふ、はい」
――字書きで、この文芸部の部長でもある。そんな日々は続く。
手に付きにくいチョコレートの袋が幾つも置かれた長机。ありがたく一ついただいて、私も席についた。
佐野さんの前で大泣きした翌日。部室に集まる皆に私は頭を下げに行っていた。そんな事しなくても許してくれる皆だとは分かっていても、そうしなければ気が済まなかったから。
そんな私に「どうやって説得しようか考えてた」「入部騒動で有耶無耶にならないかと」「この際自カプの書き手にならない?」なんて取り囲んで口々に言った上、早々に部活を切り上げてカラオケに連行した部員達。想像よりもっと優しくて私はまた泣いた。涙、全然枯れてなんていませんでした。自分まだやれます。先輩の卒業式は任せてください。
「……さてさて、しっかり揃い踏みですな」
「だぁれも逃げなかったわね」
「それでも『アポカリプス』に打ち克てるかな……?」
「大丈夫ですよ」
包帯をゆらりと揺らして、大仰に額へ手を当てた臼杵さん。私は苦笑する。
私の心臓を拾い上げてくれた人と、そのお知り合い。二人ならきっと、皆の『好き』だって大事にしてくれる。慌てふためいたあの日は、いつかただの笑い話へと変わってくれるだろう。
「あぽ……?」
「例のテスト。今日が約束の日ね」
「あっ」
お菓子を取り落とした後輩を二人がかりでなだめていれば、響くノック。誰も聞き漏らす事は無かったようで、部室がしんと静かになった。斜め向かいの臼杵さんは冷や汗を流している。ああ、あの時は貴方だってやっぱり無理してたんですね。勢いでこの部へ設定を足したのでしょう。
ひとり凪いだ心で入室を促せば、そこに並ぶ二つの顔。今度は誰にも何も言われない。私の意思で、自分から二人に近づいた。少し開いたカーテンの隙間、雲も疎らな空から降る日差しが我が部へもお裾分けされている。私の眼鏡はそれを受けてよく輝いた事だろう。
「……よく来てくれました、二人とも」
「おう」
「きちんと埋めましたよ、私達なりに」
彼女達の手にはそれぞれ紙の一枚挟まったクリアファイル。その中身が皆の目に映る。それだけで良い。それだけで、私達は仲間になれるはずだ。
まだ私だって目を通す前なのに、既に感激でいっぱいだった。
そう、であれば言うべき事がある。部長として――。
「つちゅ……謹んでお受け取りいたしましゅ」
「噛んだわ」
「噛んだでござる」
私は、ひどく赤面した。
誰か釣り上げてください。今すぐ!
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