第5話 爵位とりんごジュース

「初代グランフィール家当主、ですか……?」

「そう。それから、男爵の爵位をあげよう」

 国王陛下は、リーデンの手のひらに指輪を置いた。宝石の中に、グランフィールの家紋が彫られている。

 今日のリーデンは、ピンク色のティアードワンピースを着ている。女装している限り、リーデンは深窓のご令嬢にしか見えない。これも、父からの贈り物だ。

「こんなに良くしていただく理由が解りません。ジョセフ殿下に嫁ぐのは、妹のどちらかであって私ではありませんよ?」

 父は、かっかと笑った。

「リーデン君。君は、ジョセフの公務に、助言してくれただろう」

 この前、外国から船が帰ってきた。どうやら出先で、流行り病をもらってきたらしい。熱が出たり、腹痛になったり。問題は、我が国には存在しない病らしいということだった。薬を作るのにも、時間がかかる。

 リーデンは、船から取り寄せた健康の記録を確認した。そうして、港近くの宿を借り上げる。一度、病にかかって回復した者は、同じ病にはかからない。その者たちに、病人の看病をさせる。

 症状が出ていない者たちは、別の宿に集める。記録から十日何もなければ、無事帰宅できる。

「リーデン。病気の件で、皆、君に感謝しているんだよ」

「私が治療したり、看病したりした訳ではありませんから」

 実際、すでに解いてしまった問題には、興味がないのだろう。

「それより、あの魔力たっぷりのりんごを食べさせたほうが早かったでしょうに……」

 不穏なことをさらりと言う。やはり、力業で済ませようとする嫌いがあるな。リーデンは。

「うん、あのね。リーデン君。生まれつき多大な魔力を持っている者なら、それもありだ。普通の人に、その治療法は少し問題があるかな」

 優しく諭す。

「病気は治っても、他に何か問題が出そうですよね」

「要は、魔力が多すぎるということですよね。ならば、例えば、ジュースにして、水なり他の普通のりんごなりで割ったらどうですか?」

「ああ、それなら、ありかもしれない」


 *


「え、ちょっと待って?」

 アステロッテが挙手する。

「はい、どうぞ」

 手のひらを向ける。

「私、今までそんなヤバいものを飲まされてきたの?」

「アステロッテは、アステロッテですので平気です。何せ、妖精の女王ですから」

 ブランが、舌を出す。ああ、こういうところが、「そこらへんのお兄ちゃん」か。得心。

「大丈夫。君にしたら、ただのりんごジュースだから」

「私はいいとして、カノン、隠れて飲んでないよね!?」

 カノンの肩に手を置くも、目を逸らされる。

「うん、大丈夫。たちっと、たちっとだから……」

「やっぱり、飲んでるし!!」



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ジョセフは愛を語る 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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