第3話 牛乳とロイヤルミルクティー

「リーデンとは、いつ主従契約を結んだの?」

 弟のリシャールが、お代わりの紅茶を渡してくる。

「ありがとう、リシャール」一口、飲む。「リーデンが王立魔法学園に入学したあとだね。で、魔力をあげるのに一番手っ取り早いのが口づけな訳だけど……」

 リシャールが唾を飲み込む。

「父からあごクイされたっけ。その前に、リーデン君に手を出したら、私がお前を殺すぞってね。この国がまだあって良かったね。あははは」

「笑えないよ、兄さん……」

 リシャールは居たたまれなかったのか、掃き出し窓から庭に出た。しゃがみ、花など見ている。ななめ後ろから、弟の横顔を見る。何か思い至ったらしい。額に汗をかいている。

「僕、レオニールと主従契約を結んでしまったのだけど……」

 そろりと私の顔を見上げる。

「気にしなくていい。レオニールにしてみたら、膨大な魔力をリシャールにコントロールしてもらっているのだから」

「でも、あの時は怒っていたよね?」

 リシャールが立ち上がり、胸の前で人差し指をツンツンさせている。私は弟の脇の下をこすった。笑い転げている。

「あの時は、嫉妬しただけ。ごめんね」

 頭を撫でる。弟は、膨れている。私は息を吐き、頭を振った。

「なあに?」

「リーデンの上のお兄さんは、アッシュというのだけれど」

 フィール家の長男と次男は年子だが、三男のリーデンとは年が離れている。アッシュは人見知りで、農業に専心していた。そのアッシュが、毎朝、「リー坊のために」って牛乳を置いていくのだと。

「アー兄は、私のことを未だに赤ん坊だと思っているのだろうと、リーデンは呆れ半分だった。その時、私は一人っ子だったからね。うらやましいと思ったよ」

 リシャールは、頬をかいた。

「兄さんの愛は、いささか重いよ」

「私も牛を飼おうかな」

 リシャールは、後ろで手を組み、私の顔を覗き込んだ。

「牛はいらない。代わりに、毎朝、ロイヤルミルクティーをお願い」

「本当に?」弟の顔を覗き込む。「お兄ちゃん、豚でも飼うよ。それとも、果物? 蜂蜜?」

「もう、いらないから! うちの兄さんは、別に農業に興味ないでしょ。結局、僕の仕事になりそうだからやめてね?」

 ぷんすかぷんぷんなリシャール。

「ああ、うちの弟が可愛すぎる。気持ちがもにょっとする!」

 目を閉じ、口元を手で押さえる。

「はい?」

 白けた顔で、首を傾げる。

「ロイヤルミルクティーと引き換えに、いつまでも半ズボンの似合う健やかな男の子でいてくれ」

「おじいさんになっても、半ズボンはいてたらおかしいでしょ」

 今度の人生は、幸せが長く続きますように。







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