ヤンデレ彼女召喚セット

川北 詩歩

彼女が欲しい!!!

 俺、玉井誠一たまいせいいち、28歳。彼女いない歴=年齢の冴えない男だ。趣味はアニメとガチャ課金、人生のピークはコンビニの限定スイーツ発売日。

 そんな俺が、深夜のネットサーフィンでやらかした。怪しい通販サイト『damason』で「ヤンデレ彼女召喚魔法陣キット 特別価格12980円!」なる商品を見つけてしまったんだ。


「家事万能!激カワ!夜も積極的!」って謳い文句に、レビューは「ガチで召喚できた!」「ちょっと怖いけど最高!」とか怪しさMAX。

 なのに、俺の寂しい心が「12980円で彼女…?」と囁き、気がついたらポチってた。



 数日後、自宅に怪しい段ボールが。開けると、星形の布、怪しげなキャンドル、説明書。


「深夜0時に魔法陣を広げ、キャンドルを灯し、理想の彼女像を念じる」


 バカバカしいと思いつつ、俺はリビングの床に魔法陣を敷き、キャンドルを点火。目を閉じ、家事が得意で可愛くて、ちょっと積極的な女の子を想像した。…まあ、ちょっとエロい妄想も混ざったけど、許してくれ。


 すぐに部屋が暗くなり、魔法陣が赤く光った。


「うわ、なにこれ!?」


 焦る俺の前にふわっと現れたのは、ピンク髪の美少女。めっちゃ可愛い!


「誠一くぅん! あたし、ナナ!ずっと待ってたよ♡」


 美少女・ナナが勢いよく俺に抱きついてきた。マジで鼻血出そう。ナナは即座にキッチンでカレーを作り始め、部屋を掃除し、俺のヨレヨレの服までピシッとアイロン。夜は…まあ、積極的すぎて俺が気絶しそうだった。


「12980円でこのクオリティ! 最高じゃん!」と、思ったのも束の間。異変は翌朝起きた。


 コンビニでバイトの女の子に「袋にお入れしますか?」って聞かれただけで、帰宅したらナナが「誠一くん、さっき女の人と話してたよね? あたしじゃ足りない?」って、ニコニコしながら包丁を研いでた。俺、冷や汗。


「いや、レジだよ! ただのレジ!」って弁解すると、「ふーん、そっか♡」って笑うけど、目がマジで怖い。


 次の日、会社の佐藤先輩に「玉井、最近なんか楽しそうだな」って言われただけなのに、帰ったらナナが俺のスマホを手に持ってた。「誠一くん、佐藤さんって誰? 女? 男? ねえ、どっち?」って、画面をガンガン叩きながら聞いてくる。俺が「男だよ! 先輩だ!」って叫ぶと、「ほんとぉ? ならいいけど♡」って笑うけど、スマホは謎のクラックだらけ。


 夜、アニメ見てヒロインを「可愛いな」って呟いたら、ナナが「その子よりあたしの方が可愛いよね?」って、テレビにフォーク投げつけてきた。フォークは俺の頬を掠めて飛んでいき、画面が割れた!


 極めつけはピザを頼んだ夜。

「誠一くん、なんであたしの料理じゃダメなの?」と、ナナがピザをゴミ箱にスラムダンク。


 挙句、「誠一くんはあたしだけでいいよね? 他の女、消しちゃおうか?それとも、二人で…」と言いながらナイフを近づけてきた。俺、土下座。「ナナだけでいい! 頼む、落ち着いて!」って叫んだら、「やった♡ 愛してるよ、誠一くん!」なんて抱きついてきたけど、俺の心臓はもう限界。次の日、『damason』にメールした。


「ヤンデレ過ぎる!返品希望!」


 しかし、返信は「ご購入ありがとう♡ 返品不可!愛で乗り越えてくださーい」の一行。絶望だ。

 今、ナナが「誠一くん、晩ご飯何がいい?」って笑顔で聞いてくるけど、俺は震えながらこう思う。


――12980円で、俺の平和な独身生活は終わったんだ…。




(終)

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