第6話 ガルドの街

夕陽が城壁を赤く染める頃、俺たちはついに街の門をくぐった。

門番が軽く視線を投げただけで通してくれる。王都に比べれば規模は小さいが、行き交う人の声や香ばしい匂いに胸がざわついた。


「ここが……?」

思わず問いかけると、ミリアが振り返ってにこりと笑った。

「ガルドの街です! 王都から一番近い中規模の街で、商人さんや冒険者さんが集まるんですよ。宿やギルドもあって、とっても便利なんです」


「なるほど……人も多いな」

俺は人混みに少し押されながらも、その熱気にどこか安堵を覚えた。人の暮らしの匂い。追放され、森をさまよった後には妙に懐かしい。


「わぁ……やっぱり活気がありますね!」

ミリアは目を輝かせて周囲を見渡す。露店では串焼きの肉や果物が並び、職人らしき男たちが威勢よく声を張り上げている。


 俺は人混みに少し押されながらも、その熱気にどこか安堵を覚えた。人の暮らしの匂い。追放され、森をさまよった後には妙に懐かしい。


「まずは宿……の前に、素材を売っておきましょう!」

ミリアに手を引かれ、街の中央にある広場へ向かう。そこには皮や鉱石、魔物の素材を扱う店が並んでいた。


彼女は慣れた様子で袋を取り出す。中には狩った小型獣の毛皮や、採取した薬草が入っている。

「これと……これもお願いできますか?」

店主に差し出すと、慣れたやり取りで査定が始まった。


「ふむ、質は悪くないな。合わせて銀貨二枚だ」

「お願いします!」

ミリアが受け取った硬貨の袋を揺らす。しゃらん、と金属の音が心地よく響いた。


俺は横目で袋を見つめながら、小さく息をついた。

――あの時、弱点を外していれば……もっと素材が残ったかもしれない。

いや、よそう。生き延びたことの方が大事だ。


「宿代とご飯代は、これで大丈夫ですね!」

笑顔で見せてくる銀貨。俺は思わず苦笑する。

「……助かる。こういうのは全然分からいからな……今度教えてくれないか?」

「任せてください!」

胸を張る姿に、自然と肩の力が抜けていった。


「じゃあ、今度こそ宿を探しましょう!」

ミリアに引っ張られるように、大通りを抜けて小さな宿屋へと辿り着く。



「一部屋しか空いてません」

受付の女性が申し訳なさそうに告げた。


俺は思わず言葉を詰まらせる。だが、ミリアはあっけらかんと笑った。

「大丈夫です! 二人で一部屋なら問題ありません!」


こうして通されたのは質素な部屋。木の床に古びたベッドが一台、窓からは夕暮れの光が差し込んでいる。

重い荷を降ろすと、ようやく肩の力が抜けた。


「まずは腹ごしらえですね!」

ミリアが元気よく言い、階下の食堂へ。


テーブルに並んだのはシチューと硬いパン、香草をまぶした肉の串焼き。

「いただきます!」

ミリアは両手を合わせると、さっそくスプーンを口に運ぶ。


「ふわぁ……あったかい……!」

頬に手を添えて、幸せそうに目を細める。熱さに「ふーふー」と息を吹きかけてから、また夢中で口に運んだ。


パンを小さくちぎってシチューに浸すと、口に入れた瞬間に「んっ」と声が漏れる。金色の瞳がきらりと光り、子供のように嬉しそうな顔を見せた。


串焼きの肉にかぶりつくと、香草の香りに目を輝かせる。だが、口元にソースがついてしまい、慌てて袖で拭う仕草は小動物のようで、思わず笑みがこぼれそうになる。


「美味しい……!」

何度も呟きながら、ひと口ごとに小さな表情をころころ変える。シチューを味わうときはとろけそうな顔、パンを頬張るときは幸せそうな笑顔。

その純粋さに、周囲の喧騒さえ少し遠く感じられた。

 


テーブルに並んだのはシチューと硬いパン、香草をまぶした肉の串焼き。

「いただきます!」

ミリアは両手を合わせると、さっそくスプーンを口に運ぶ。


「ふわぁ……あったかい……!」

頬に手を添えて、幸せそうに目を細める。熱さに「ふーふー」と息を吹きかけてから、また夢中で口に運んだ。


パンを小さくちぎってシチューに浸すと、口に入れた瞬間に「んっ」と声が漏れる。金色の瞳がきらりと光り、子供のように嬉しそうな顔を見せた。


串焼きの肉にかぶりつけば、香草の香りに目を輝かせる。口元にソースをつけて慌てて拭う仕草は小動物のようで、思わず笑みがこぼれそうになる。


「美味しい……!」

何度も呟きながら表情をころころ変えるその姿に、俺はふと気づく。

――こうして一緒に食べるだけで、こんなにも食事が違うのか。

ただ温かいだけのシチューが、不思議なほど心に沁みていった。



夜。部屋に戻ると、古びたベッドが一台きり。


ミリアは迷いなく靴を脱ぎ、ベッドに潜り込んだ。銀髪が枕に広がり、ふわりと甘い香りが漂う。

「……ユウタさん、何してるんですか? 入らないんですか?」


本当に純粋に不思議そうに問いかけるその声に、俺は思わず言葉を詰まらせた。


「……いや、俺は床でいい」

即答すると、ミリアはぱちぱちと瞬きをして、きょとんとした表情を浮かべる。


「えっ? なんでですか? 床は冷たいですよ、風邪ひいちゃいます!」

「平気だ」

頑なに拒む俺に、彼女は小さく唇を尖らせ、それでもふわりと微笑んだ。


「もう……じゃあ、せめてあったかくして寝てくださいね」

少し拗ねたように、けれど優しさを滲ませて言葉を残す。そのまま毛布に包まり、金色の瞳が炎に照らされて一瞬こちらを覗いた。

「……おやすみなさい、ユウタさん」


俺は床に背を預け、薄い毛布をかぶる。木の香りと、隣から微かに聞こえる寝息。

追放され、孤独に沈むはずだった夜が、不思議と穏やかに感じられた。

 

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