第4話 体育祭の裏側で秘密の膝枕

(静かな教室。カーテンが風で揺れる音。椅子を引く音、机に何か置く音)


「……ほら、動かんで。足、まだ痛いやろ?

 さっきのリレーで派手に転んだんやけん、そりゃ腫れるっちゃ。

 ──はい、膝枕。文句は受け付けん。今は大人しくウチに甘えとき。」


(衣擦れ。頭が膝に乗る音)


「……ふふっ、その顔。え、照れとる?

 なに耳まで真っ赤にしとると? かわいすぎ。

 ……もしかしてさ、膝枕なんかでドキドキしとるん?

 やっば〜、バレバレやん!

 ウチの方がドキドキしとるの、隠すの必死やけんね……内緒やけど。」



(タオルを水で冷やす音。軽く絞る音)


「はい、冷やすよ。ちょっと冷たいかも──我慢してね。

 ……あ、ビクッてした。ふふっ、弱いねぇ。

 ほら、じっとしとき。逃げようとしたら……膝から落ちるよ?」


(膝に頭を押さえる仕草。髪をかき分ける音)


「……汗すごいやん。走りすぎ。

 あんた、ゴール前で抜けるわけないって分かっとったやろ?

 それでも本気で追いかけて……転ぶまで走って。

 ──バカすぎ。でも、かっこよすぎ。」



(囁き、吐息が耳にかかる距離)


「……ねぇ、ウチがこんな真面目に褒めるの、珍しかろ?

 いつも茶化してばっかやけど。

 ……でも、あの必死な顔見て、ウチ、ちょっと心臓止まるかと思った。

 ……だから今、こうして介抱しながら……逆に落ち着いとる。」



(少し間。タオルで髪を拭う音)


「ほら、前髪も濡れとる。……じっとして。

 え? 顔近いって? 当たり前やん。

 ウチが拭いとるんやけん、距離ゼロやん?

 ……なに、目ぇそらした? ふふっ、可愛い〜。

 逃げ場ないね。あんた、ウチの膝の上で完全に捕まっとるやん。」



(手が触れる音。少し間を置いて)


「……ねぇ、手、貸して。……はい。

 ──うわ、熱っ。ほんとに熱あるんじゃない?

 あ、違うか……ドキドキで熱くなっとるだけ?

 ふふっ、そういうとこ分かりやすすぎ。

 ……安心して。ウチも、同じくらいドキドキしとるけん。」



(教室の外から歓声。少し静けさ)


「……ウチ、こうやって誰かに尽くすの、ちょっと苦手やったんよ。

 なんでも“いいよ”って言って断れんくせに、ほんとはしんどくて。

 でも、今は不思議。あんたやけん、世話焼くのも全然嫌じゃない。

 ──意味わからんよね。ウチ自身も分からん。」



(囁き、耳ぎりぎりの距離)


「……でも、これは分かる。

 あんたがウチにとって特別ってこと。

 他の誰にもこんなことせんし、こんな距離まで近づかん。

 ……あんただけやけん。

 ──だから、調子乗らんでよ? これは内緒。」



(少し間。ギャルが小さく笑う)


「……ねぇ、膝枕って、意外とウチの方が照れるね。

 ……心臓、バクバクやし。

 ほんとは、このまま時間止まればいいのにって思っとる。

 あー! 今のも忘れて! 聞かなかったことにして!」



(チャイムが鳴る。遠くで歓声)


「……よし、そろそろ戻らなきゃやね。

 でも、もうちょっとだけ……このままでおっていい?

 ……あんたの重みと温度、ウチ、なんか安心するけん。」


(小声で、耳元)


「……内緒やけど──今、ウチちょっと……幸せ。」


(囁き声、耳ぎりぎり)


「……あんたのこと、ほんとは──」


(教室のドアがガラッと開く音)


「……っ!!」


(ギャル、慌てて声を上げる)


「えっ!? あっ、ちょ、せ、先生!?

 あ、あのっ……その、ウチ、ただ……介抱を……!

 ほ、ほら! タオルで冷やしてただけっちゃん!!」


(机を慌てて動かす音。ギャルの小声)


「……やば、見られた。

 あーもう……二人きり、終わっちゃったやん。

 ……ほんとは、まだこのままがよかったのに。」


(小声で囁く)


「──続きは、またあとで。……内緒やけん。」


(保健室に運ばれていく足音。フェードアウト)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る