博多弁ギャルは距離ゼロで甘過ぎる

せんみつ

第1話 掃除当番マジだる〜! …でもあんたと二人きりは悪くないかも?

(放課後の教室。机や椅子をガタガタ動かす音。窓から夕日が差し込む)


「……はぁ〜、マジだる。今日ほんとはウチ当番やなかったっちゃんよ。

でもさ、クラスの子に『お願い!』って泣きつかれて……断れんやん?

先生にも『頼むぞ』って言われて……もう、しゃーなかって。

──ってことで、ウチは今ここで無駄に働かされとるわけ。」


(ほうきをトントン床に叩く音)


「で、あんたも巻き込まれとるっちゃろ? ふふっ、運命共同体やん。

ほら、机ずらして。ちゃんと押さんとウチ怒るけんね。」


(机をゴトゴト動かす音。椅子の脚が擦れる音)


「……おっと、近っ! ちょ、なにその顔。耳まで真っ赤やん!

え、ウチの顔が近いけん? ははっ、バリおもろい〜!

かわいすぎやろ、ほんと。マジでからかい甲斐ある〜。」


(机をパンッと叩く音)


「ほら、息かけたらもっと赤くなるんやない? ……ふぅ〜。

ほら見てみ、さらに赤くなった!

あーやば、反応サイコー。やっぱウチ、あんたからかうの楽しすぎっちゃん。」


(雑巾をしぼる音。水が滴る音)


「……にしても、今日ほんと疲れる〜。

授業だってさ、あの古文の先生の話、めっちゃ長すぎやん?

ウチ、途中で完全に寝落ちしかけたもん。

……あんた? 真面目にノート取っとったっちゃん? えら〜。

でも真面目すぎてちょっと面白くないよね。もっと遊び心持たんと!」


(ほうきで床を掃く音。夕方の風が入る)


「……でもね、ウチって昔から、人に『お願い』されたら断れんのよ。

テストのプリントも『写させて』って言われたら貸すし、

部活の雑用も『頼む!』って言われたら引き受けるし……。

ほんとはいやでも、つい『いいよ』って言ってしまう。

だから今日も、当番やないのに、こうして掃除しよる。」


(少し間。夕方のチャイムが遠くで鳴りかける)


「……でも、なんでやろね。

ウチ、なんであんたにこんな話しとるんやろ。

別に、打ち明ける理由なんかないのに。意味わからん。

……でも、不思議と……あんたには言えるっちゃん。」


(椅子をギィッと寄せる音。耳元で囁き)


「……この話、他の誰にも言わんけん。今日のこと、内緒やけんね。」


(少しの間。照れ笑い)


「……あー、やば、言ってもうた〜! 忘れて! 今のナシ!

……でもさ。次また一緒に残っても……ウチはいいっちゃんよ?」


※掃除中〜


(教室の窓を閉める音。カバンを肩にかける音)


「……よし、終わり! ふぅ〜、マジで疲れた〜。

 あんたも、おつかれ。……ほら、帰ろ。どうせ同じ方向やろ?」


(廊下を歩く足音。遠くで部活の声が響く)


「……なんか、校舎って夕方になると雰囲気変わるよね。

 昼間はうるさいのに、今はシーンってしとる。

 ……ちょっとドキドキせん? 二人で歩いとるからかな?」


(階段を下りる足音。外に出て、夕方の風の音)


「……わ、風つめたっ!

 ねぇ、手冷たくない? ほら、触ってみ……って、ビビりすぎ〜!

 別に手つなげって言っとらんし。冗談やん。ふふっ、顔また赤くなっとる〜!」


(しばらく歩く。カラスの鳴き声、踏切の音)


「……ねぇ、ウチ、さっきの話……人に頼まれると断れんとか……。

 ほんとは、誰にでも話すことやないんよ。

 でも、なんでやろね。あんたと歩いとると、つい口が軽くなる。

 ……意味わからん。マジで、なんでウチこんなに喋っとるとやろ。」


(声を少し落として、横目で)


「……でも、不思議とイヤやないっちゃん。

 むしろ……ちょっと嬉しい。……これも内緒やけんね。」


(信号待ち。車の音)


「……赤信号やん。ん、ちょっと待っとこ。

 ……ねぇ、こうして並んで立っとると……なんか、デートみたいやね。

 や、冗談やって! 本気にすんなって〜! ……でも、ちょっとは……そう見えてもいいかな。」


(青信号の音。歩き出す足音)


「……ふふっ。なんか今日は、変な日やったね。

 掃除押しつけられて、仕方なく二人で残って……。

 でも、ウチにとっては、悪くない日やったっちゃん。」


(しばらく歩く。商店街のざわめき)


「……ねぇ。そういえばさ、ウチらって連絡先とか知らんやん?

 え? びっくりした? そりゃそうやろ、だってクラスで一回も交換してないやん。」


(スマホを取り出す音。画面をタップする音)


「……ほら、ウチのアカ。交換しとこ。

 ──え? なんでって? いやいや、今日みたいに一緒に残ること、またあるかもしれんやん。

 ……それに、なんか、あんたとやったら既読スルーとかせん気がするし。」


(少し間。声を落とす)


「……ウチさ、人に頼まれたら断れんって話したやん。

 でも、これはお願いやなくて……ウチが勝手にしたいだけ。

 ……意味わからんやろ? ウチ自身も意味わからんっちゃん。

 ──でも、今はこれでよか。」


(通知音。交換完了)


「……よし、登録できた。

 ふふっ、ウチの名前、ちゃんと一番上にピン留めしときなよ?

 ……してくれんかったら、泣くかも。──なーんて、冗談冗談!」


(少し照れ笑い。歩き去る足音)


「……じゃあ、また明日。

 ──いや、明日よりも先に、今夜チャットするかも。覚悟しとき。」


(夜の街の雑踏に溶けてフェードアウト)

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