願いを叶える御札(999円・送料無料)

川北 詩歩

怪しい通販サイトの御札

 大学生のたけしは、ネットサーフィン中に怪しい通販サイト『damason』に迷い込んだ。胡散臭い広告に溢れるサイトで、【願いを叶える御札(3回限定)】が目に飛び込む。価格は999円。

 レビューは「バッチリ叶った!」「廃棄できないから注意!」と賑やかだ。半信半疑ながら、財布の寂しさに背中を押され、タケシはポチッと購入。


 数日後、届いたのはシワシワの封筒。中には黄ばんだ御札と「3つの願いを叶えるが、廃棄不可。燃やしても水没させても戻ってくる」と書かれた説明書。

 毅は「まぁ、ネタでいいか」と、早速一つ目の願いを唱えた。


「宝くじで100万円当たりますように!」


 御札を握り、宝くじ売り場でスクラッチくじを買った。すると、なんと100万円的中!


「マジか! damason最高!」


 毅は小躍りした。調子に乗った彼は、二つ目の願いを考える。


 片思いの同級生・同じ学部のマドンナ的存在の由里の笑顔が頭に浮かぶ。


「由里ちゃんに死ぬほど愛されたい!」


 毅は御札を握り締め、ドキドキしながら願った。


 翌日、大学で由里が突進してきた。


「毅君、めっちゃ好き! もう離さないから!」と抱きつかれ、毅は赤面。だが、喜びも束の間。彼女の「愛」はエスカレート。授業中も後ろでジト目で見つめ、昼休みは弁当を口に突っ込み、「食べて食べて!」と迫る。


 夜は「毅君の寝顔見たい!」と窓の外に張り付き、毅は恐怖で震えた。メッセージアプリには1分ごとにメッセージが届く。しかも、由里がナイフを手にして微笑んでいる自撮り付き。


『毅君、私のこと嫌いになったの?』


『マジで病む。私だけ好きって言ってよ』


『 殺 し た い ほ ど ア イ シ テ ル 』


「死ぬほどって、こういう意味かよ!」


 願いはあと一つ。御札を捨てようとゴミ箱に放り込んだが、翌朝には枕元に復活。トイレに流しても、電子レンジでチンしても、御札はニヤリと笑うように戻ってくる。


「こいつ、呪いのアイテムじゃん!」


 毅は頭を抱えた。由里のストーカー化は止まらず、街中で「アナタの汗、欲しいな」と嗅がれた時は本気で逃げ出した。


 最後の願いをどうするか。毅は悩んだ末、大きな声で叫んだ。


「全部元通りにして、御札も消えてくれ!」


 だが、御札はピクリともせず、説明書の裏に「元通りの願いは無効。面白みがないから」と小さく書かれていた。


「damason、ふざけんな!」


 そして、叫んだ瞬間にひらめいた。


「由里ちゃんが普通に好きになって、御札が誰か別の奴に渡るように!」



* * * * *



 翌朝、由里は普通に「毅君、好きだよ」と告白。ヤンデレストーカー気質は消え、穏やかな笑顔に毅はホッとした。だが、御札は見当たらない。

 焦って部屋を探すと、親友の賢治けんじが「これ、damasonで買ったんだ! 願い叶うんだろ?」と御札を振り回していた。


「やめろ! それ呪いだ!」


 毅の叫びを無視して賢治はニヤニヤしながら「俺、アイドルと結婚したい!」と願った。その瞬間、スマホに謎の着信が。画面には「推しアイドルからのDM」と表示され、賢治の悲鳴が響いた。


「damason、恐ろしい子…!」


 毅は静かに天を仰ぐのだった。



(終)

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