最終話「いちばんちかくに」




 ――あの日。

 オレ達は、ちゃんと番になった。


 家族や周りにも、祝福してもらった。

 番が居ると、発情期の管理もしやすいらしいのだけど、今はまだ仕事は休んで、様子見中。


 クロムのファンの人達は、案の定大騒ぎだったらしいけど、クロムの方が執着してると触れ回ってくれたらしく、オレへのあたりは強くない。

 むしろ、邪魔するようなら、クロムが乗り出す的な噂も、広まってるみたい。


 ――実は今でも、全部全部、夢みたいだなと、思う時がある。けど。



「ん……」


 隣で寝ていたクロムが、身じろぎをして、ふと瞳を開けた。綺麗な青の瞳。

 オレの瞳と同じ、琥珀色の石のついた指輪をした手がそっと伸びてきて、頬に触れてくる。


「リン……おはよ」


 すり、と撫でて、少し寝ぼけた声で言って、ふんわりと優しく笑う。



「おはよ」

 答えたオレの顔も、絶対緩んでる。



 夢みたいだし。

 またクロムが居なくなっちゃったらどうしよう、なんて、心配になる瞬間もあるけど。


 でも、クロムはいつも隣にいる。


 王子さまみたいなクロムが、オレの番で。

 オレのことを「一生愛する」なんて、言ってくれて。


 毎朝隣に居て、当たり前のように尊い笑顔で「おはよう」って声をかけてくれる。



「早起きだね」

「ん。クロム、見てた」

「……ふふ。そっか」


 すり、と頬を撫でられて、くすぐったくてちょっと肩を竦めると、そのまま抱き寄せられた。


「そうだ、今日、午後休みにしたんだ」

「え、そうなの?」

「リンが行きたがってたパン屋、いこ?」

「えっ。いくいく!」

「はは。なるべく早く帰ってくるね」

「ん、待ってる」


 もう昔みたいに一緒に登校はしないけど。

 あの頃みたいな穏やかな時間が、今、こうして戻ってきたなんて。


 本当に不思議で。でも、すごく嬉しくて――朝から、ちょっと泣きそうになったり、嬉しくなったり。情緒が毎日忙しい。


 クロムは前と変わらず、落ち着いてて、賢くて、何でもできて、すごいと思う。

 特に、職に関してはもう皆に頼られてるのが、一緒に暮らしていると、すごく分かる。


 ――でも、二人きりの時は、甘えてきてる気がする。

 オレのすぐそばに座って、なんかぴっとり、触れてる。


 仕事の資料とか見ながらも、なんかよく、オレに触ってくる。

 ふと見上げると、にこ、と微笑む。


 朝も、こんなふうに、くっついてから起きることが多い。


 たぶんこういうの。

 オレにしか見せない顔なんだろうなぁって。

 そう思うと、胸がいっぱいになる。


 ちょっと、昔の幼いクロムと重なって見えたりもする。



「リン、今日も可愛い」


 ――これは。クロムが、隙あれば言う、セリフ。

 可愛いとか好きとか愛してるとか。

 ……たまに、ヤキモチっぽいことも言う時がある。


 あんまり近づいちゃだめだよ、とか。

 オレ以外に、可愛い顔で笑わないで、とか。


 そういう気持ちがクロムにあるのは、番になってから、知った。

 ――特にヤキモチは、たまに冗談めかして会話を終わらせるけど、でもきっと、本気なんだろうなと思うと、ほんと、ちょっと笑ってしまう。


 クロムより好きになる人なんかいるわけないのに。


 ――夜とか、淡白そう、なんて思ったクロムは、実は全然そんなこと無くて。たまに、無理、てなってるけど。

 なんか、愛され感が半端なくて、そこは、嬉しい誤算だった。



 オレにとって、ずっと、クロムだけだったみたいに。

 クロムにとってもオレだけだったんだなって。少しずつ、実感してる。


 まあでも、これからもきっと、色々あるだろうし。

 発情期とか、仕事のこととかやっぱりまだ不安もあるし。

 ……モテすぎる旦那さまは、ちょっとやっぱり、心配はある、けど。


 でも、クロムは、そばにいてくれるって、言ってくれてる。

 リン最優先で、一緒に居る。もう絶対、離れないから。この二年、どれだけオレが、死ぬほど、寂しかったか……。

 なんて。延々続くときもあるから。

 ふふ。こんなクロムを見れるなんて。もう幸せすぎて、胸の中、あたたかすぎる。


 突然オメガになって、人生どうしようと思っていたときに、来てくれて。


 今、オレに触れて、抱き締めて、頭や背中を撫でてくれるその手に。

 どれだけ救われているか。感謝してるか。クロムはたぶん、全部は分かってないと思う。



「クロム~」

 むぎゅ、と抱きついて、クロムの上に乗っかると、クロムはクスクス笑いながら、ぎゅう、と抱き締めてくれた。


「午前中も休みにしようかな……」

「え。ダメでしょ。忙しいのに」

「……はー」

「ちゃんとお仕事してきてね」

「んー……はーい」


 本気で残念がってそうで、笑ってしまう。




 ――子どもの頃からずっと近くにいて、でも、一番遠くなってしまったクロムが。

 結局、今も、オレの一番近くにいてくれる。



 一緒に笑って、一緒に歩いて――



 今度こそ、ずっと、離れないように。













◇あとがき◇


ここまで読んでくださって、

本当にありがとうございました。

良かったら感想など聞かせて頂けたら(っ´ω`c)


これからたくさん載せていこうと思うので、

フォローしてくださると嬉しいです♡


そうだ、せっかくなのでお知らせしておこう。


実は昨日(2025/9/20)

書籍化が進行中で告知になりました(*´ェ`*)

(まだ改稿など頑張ってるところです(´∀`*)ウフ)


「ひみつの巣作り」というお話。

アルファポリス・フジョッシー・エブリスタにあります。

可愛いオメガバースの夫夫(アルファ×オメガ(元アルファ))の

お話です。

「悠里」「ひみつの巣作り」とかで検索するとで出てきます。

ぜひぜひ(*'ω'*)🩷


星井 悠里🩵

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BL*「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」 悠里 @yuuri_novel

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