別れ話と、指輪の箱と

満月 花

第1話

ーータイミングが合えば、未来が違っていたかも


カレンダーを見て、ふと、彼女はため息をついた。

気がついたら、もうすぐ5年になる。

出会って意気投合し、お付き合いを始めた。

30歳になる手前でプロポーズがあるかも、と期待もしたが

ただ、交際3年目のお祝いをしただけ。


このまま、だらだら付き合い続けるだけなのかな……。


それとなく、こちらから結婚話を持ち出したこともあったが、

彼は気乗りしない感じで適当にはぐらかされた。

自分は都合のいい女なだけなのかも知れない。


このままじゃ良くない、とそろそろ見切りを付ける時だと思う。

長い年月を一緒に過ごしたからか、明らかに気心知れた関係。

気心知れすぎて、恋人というよりも、もはや家族の境地だ。

トキメキもワクワクもない。

なんとなく何の未来も見えずに惰性で付き合い続けるなら

きっぱりと別れ新しい出会いを求める。

そんな気持ちが、ここ最近ずっとある。

5年目に突入する前に。

もうすぐ会う約束がある。

その時に切り出そう。


……もし、その時に彼がプロポーズしてきたら?

一瞬だけ、心が揺れた。

でも、彼女は首を振る。

もう遅い。一度冷めた気持ちはもう燃え上がる事はない。

まぁ、そんなことないと思うけど。


また、いつものように明るく“これからもよろしく!”って

言うのだろう。

別れを切り出したら、予想もしていない事に驚く顔が浮かぶ。


少しだけ、いい気味。ごめんね。


***


もうすぐ付き合い始めて5年目。

いい区切りだと自分でも思う。

彼女にプロポーズするぞ!と決めていた。


結婚するなら彼女しかいない。


こんなに自然体でいられる相手はいないって、思える相手。

初めの時のように常に彼女が満足するために頑張り過ぎて

その反応に一喜一憂してた頃と違い、お互いに自然体でいられる。


ーー30歳前までは結婚する気はなかった。

仕事でそんな余裕もないし、ひょっとして別の出会いがあるかもと

そんな勝手な想いを心のどこかに残しつつ、彼女の結婚願望を知らぬふりをした。


それ以来そういう事を言ってこない。



とはいえ、世間的にお互い適齢期だ。

周りもそろそろ身を固めろ、と勧めてくる。

彼女もきっと待ってると思うぞ?とアドバイスをしてくる既婚者の先輩。


よし、俺も男だ!交際5年目の節目にガツンと決めてやろうと思う。

きっと彼女は喜ぶだろう。

びっくりして感激に咽び泣くかも知れない。


***


次の日曜日。5年目の記念日。

ーー彼女と彼の未来は、まだ誰も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

別れ話と、指輪の箱と 満月 花 @aoihanastory

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ