イケメンの旦那様
高野ヒロ
第1話
「怖い話、ですか?」
呼び止めたのはとあるカップル。男性は細マッチョで高身長のイケメン。柔和な笑みを浮かべて彼女の傍らに寄り添っている。女性は何処か陰のある表情をした儚げな美女。ノリで始めたこの企画。彼女の反応的に初っ端から当たりを引いたかな。
「私には、霊感とかはないんですが……」
「人怖でも構いませんよ?」
「分かりました……」
そう言うと彼女は語り始めた。
「少し前、同窓会に行って来たんです。十数年振りに出会った友人達と他愛もない会話で盛り上がっていたんですが……」
「ふとした拍子にある友人がこう言ったんです。『あれ?彼氏?お迎え?』と」
「私は『何の話?』と問い掛けました。そうしたら別の友人がこう言うんです。『あれが噂のスパダリな旦那様か〜。やべぇ、マジイケメンじゃん。イケメンなだけじゃなくて気遣いの鬼なんだろ』と」
「私は意味が分からなくなりました。何故なら私に恋人など居なかったからです。それを伝えると友人達は不思議そうに首を傾げて『いやいや、隠さなくていいよ』『そうだよ。だってL○NEで私の彼氏マジスパダリなんだけどって連絡してきたじゃんか』『そうそう、惚気ぶち撒けてたじゃん』って言うんです」
「私は何がなんだか分からなくなり、気分が悪いと理由をつけて途中で同窓会を抜けて自宅に戻りました」
「その日からです。悪夢を見るようになったのは」
彼女の顔に陰が落ちる。
「その日から私は、寝る度に、屈強な男に組み敷かれ、その、抱かれる夢を見るんです……その男は私の耳元で愛を囁いて、私はそれを、嬉しそうに受け入れていて……」
「ほう」
彼女の怖い話はエロス系だったようだ。不謹慎ながらドキドキワクワクである。
「その、それから信じて貰えないかもしれませんが……」
彼女は一呼吸置いて
「私、実は男なんです。いえ、男だったんです」
「は?」
「信じられないでしょうね。でも同窓会に行くまではごく普通のアラサー社畜男だったんです!でも、同窓会の日から何故か顔つきが女性になって、胸が膨らんで、男の象徴も消えてしまって……でも家族や友人に相談しても皆私は元々女だったって言うんです。私、私は……」
流れが変わった、だと……?
「……ごめんなさい。信じられませんよね。どうか忘れてください……」
そう言って彼女は去って行った。彼氏はその間一言も話さなかった。
数カ月後、ノリで始めた怖い話の企画の事などすっかり忘れていた。そんな俺の前をとある家族が横切る。高身長細マッチョのイケメンと何処か陰のある美女と二人と手を繋いでいる小さな女の子。そこでようやく思い出した。この夫婦はあの時の企画のカップルだと。
幸せそうに笑い合う彼らを見ながら俺は小さく祈った。色々と聞きたい事や言いたい事もあったがとりあえず一つ。
どうぞ、末永くお幸せに。
イケメンの旦那様 高野ヒロ @takahiro528
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