秋風の夜とカプセルトイ
シーラ
第1話
ガチャガチャ……ポン
お金を入れてカプセルトイを回すと、コロンとオレンジ色のカプセルが一つ出てきた。
手に取り、開封前に緊張を解すように一息つくと、夕暮れの秋の風が頬を心地良く撫でる。
高校の帰り道、駅構内に置かれているカプセルトイコーナー。
欲しい商品が中々当たらず、お小遣いをやりくりし家の手伝いをして手間賃を貰い。いくら費やしただろう。学生には一回回すだけでも苦労するんだ。
緊張する手を動かし慎重にカプセルを開けると、目当てのぬいぐるみがコロンと出てきた。
「〜〜っ!!」
声にならない喜びを噛み締めていると、背後に視線を感じる。チラリと見れば、同じクラスの子が自分の手元を見ていた。欲しいのだろうか。見つめ返すと、その子は慌て始める。
「あっ!ご、ごめんね。私も回したくて。」
申し訳なさそうな様子にホッとしながら軽く挨拶をし、足早にホームへ向かう。早く帰って飾ろうとホームへ向かう階段を上がる。が、気になってしまい、階段を少し上がった所で後ろを振り返った。
「またダブっちゃった。3個だけど可愛いねぇ。」
カプセルを開けるその子の後ろ姿。秋風に乗って微かに聞こえた声。耳に掛けていた髪の毛がハラリと流れる様子。心地良い風が自分の心を吹き抜けていった。
出てきたぬいぐるみを手に、残念そうにホームへ続く階段を上がってくる姿。その様子にはっとし、肩に掛けていた鞄を漁る。前に当てた物を見つけて手に取ると、階段を上がってきたその子に意を決して渡した。
「えっ!!本当にいいの!?嬉しい!!ありがとう!!」
一緒に階段を上がり、ホームで電車を待つ。口下手な自分の代わりに、沢山話をふってくれる彼女。お互いのポケットにしまった、カプセルトイのぬいぐるみの、確かな存在。
会話が風に乗り、線路を掛けていき、幸せな夜を連れて来た。
秋風の夜とカプセルトイ シーラ @theira
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