異世界で手を組まされたのは、強すぎる堕天使でした
まっちゃ
プロローグ
プロローグ 儀式と転移
六月六日。
「Rex lapsus, offerimus tibi vitas nostras.」
毎年この日の朝食に唱える、見慣れたラテン語の呪文。
そして、一個のリンゴを口に運ぶ。
うちの家族は、この奇妙な儀式をずっと続けている。
俺はこれをカルト宗教の類だと内心では思っていた。
去年までは、その儀式を父が取り仕切っていた。
父は三十七歳という若さで老衰で亡くなった。
信じられない死因だったが、
母は「あの意味不明な儀式のせいだ」
と口を酸っぱくして言った。
父が死んでから、俺たち家族の間にあった、些細な日常の雑談も消えた。
今では、この儀式の日以外に、まともに顔を合わせることすらない。
父は、親戚が一人もいなかった。
どこかから来た謎めいた人だった。
だが、父の身体能力は常人離れしていた。
小学生の頃、父に背負われて走った短距離走大会。
俺を背負って走る父の速度は、まるでチーターのようだった。
陸上部のコーチは、何度スカウトに来たかわからない。
父はいつもにこやかに断っていたが、そのたびにどこか寂しそうな顔をしていた
俺も、親父ほどじゃないが、身体能力が高かった。
高校に入ってから、その力は顕著になった。特に、長距離走では誰にも負けなかった。
俺の髪色は、生まれつき半分が黒、半分が白だった。
それは、幼い頃から俺のトレードマークだったが、高校ではそれがからかいの対象になった。
某鬼滅の刃の冨岡さんに似ていると言われ、半々髪とあだ名を付けられた。
だが、そんな些細なからかいよりも、俺の心を蝕んでいたのは、父がいないという喪失感だった。
そして、父が残した、この不気味な儀式だ。
母は何度も、もうやめてくれと懇願した。俺だって、こんな儀式は嫌だ。
だが、まるで何かに操られるかのように、強い義務感に突き動かされる。
やめることなど、最初から許されていないかのように。
リンゴを頬張ると、それはまたやってきた。
全身の血が抜けていくような、耐え難い不快感。それと同時に、脳が痺れるほどの、背徳的な快楽。
まるで毒と薬を同時に味わっているような感覚。
この儀式以外で、こんなことは一度も起きたことがない。
どうにかリンゴを飲み込み、ソファに倒れ込むと、母が黙ってタオルをかけてくれる。
母は儀式に参加するが、俺や父が感じるような異常な感覚はないらしい。
ただ静かに、ぐったりと倒れ込んだ俺のそばにいてくれた。
いつものように儀式を終え、学校に向かう。学校は、平凡で、騒がしく、そして退屈な日常の象徴だ。
教室に入ると、相変わらずの騒がしさに少し嫌気がさした。
「おい、半々髪、昨日のゲームやったか?」
俺の隣の席の山田が話しかけてきた。山田は、俺の数少ない友人だ。俺は首を横に振った。ゲームの話は特に興味がなかった。
昔から人付き合いは苦手だった、友達ほしいのに、、、
放課後、俺は一人で帰路についた。いつもの通学路。どこにでもある、平凡な街並み。
(帰ったら寝ようかな、、)
そんなことを考えながら歩いているその時だった。
足元の地面が、まるで水面のように揺らぎ始めた。そして、空が、まるで紙のように破れる。世界から音が消え、景色が歪んでいくようだった。
「は?」
なぜか俺は宙に浮いていた
足元の地面も、頭上の空も、すべてがねじれていく。身体は重力から解放され、まるで無重力空間に放り出されたかのように浮遊していた。
上下も左右もわからず、ただ、体の内側から湧き上がる不快感に耐えるしかなかった。
だが、落ちていく視界にわずかに見えたのは真下にある馬鹿でかい川、そして、奥に薄っすらと見える摩天楼のような建物だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます