カメのゆうびんや
霜月あかり
カメのゆうびんや
森の奥に、ゆっくり歩くカメの郵便配達員がいました。
名前は「カメじい」。いつも背中に小さな郵便バッグをしょっています。
ある日、リスがカメじいに駆け寄ってきました。
「カメじい、この手紙をフクロウさんに届けてほしいの。
夜になると怖くて眠れないから、元気を分けてほしいって……」
カメじいは、にっこりとうなずきました。
「よしよし、わしに任せなさい。あわてなくても、手紙はちゃんと届くからね」
カメじいは、ゆっくり歩き始めました。
途中、小川のほとりでカワセミが声をかけます。
「カメじい、その手紙、ぼくが運んだらすぐに届けられるよ?」
けれどカメじいは首を横に振ります。
「ありがとう。でも、わしはわしの速さで運ぶのさ。
道すがら、手紙がどんな気持ちをのせているかを、ちゃんと感じながらね」
夕方になって、やっとフクロウの大きな木にたどり着きました。
「ふう、フクロウさん。リスくんからのお手紙じゃよ」
フクロウは封を開けて、にっこりと目を細めました。
「……なるほど。リスくんは夜が怖いのか。わかった、ぼくからも返事を出そう」
フクロウはすぐに便箋を取り出し、やさしい字でこう書きました。
――夜は君をおそわない。
木々も星も月も、みんな君を守っている。安心して眠りなさい。――
カメじいは、その手紙をまた背中にしまい、夜道をゆっくり戻っていきました。
道の途中、空には星がひとつ、またひとつと瞬き始めています。
そして夜更け。リスの巣に手紙を届けると、リスは胸に手をあててほっとしました。
「ありがとう……カメじい。ゆっくりだったけど、だからこそ安心できたよ」
リスは眠そうに目を閉じ、すぐにすやすやと眠りにつきました。
カメじいは空を見上げて、静かにほほえみました。
「手紙ってのは、速さよりも、ちゃんと心を届けることが大事なんじゃな」
――こうして、ゆっくりなカメの手紙は、森のみんなに安心を届けていくのです
カメのゆうびんや 霜月あかり @shimozuki_akari1121
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