占いババアに育てられましたが、そろそろ下剋上してもいいですか?

ふぁゆ 

第1章 占いとパンダパンと、私のギリギリ生活

中華街って、いつ来ても人が多い。観光客、カップル、謎の外国人、

そして──今日も私。


私はこの街の片隅にある、占い屋「占卜(せんぼく)」に住んでいる。

……そう、住んでいる。


物心ついたときから、ずーっとここ。育ての親は“占いババア”っていう、名前も年齢も不明な謎の女。職業はもちろん占い師。


そして私は、その弟子。いや、ほぼ使いっ走り兼広告塔である。


「はいはい〜占いやってくよ〜! テレビでも紹介されたやつ! 手相でも運勢でも、なんでも占えるよ〜!」


私の担当は“客引き”。


一日のノルマは10組。10組超えると、そこから先は1組ごとに100円の“歩合”がつくシステム。


しょっっっっっっぱい。コンビニの時給見てこいババア。


それでも私は声を張る。

汗だくになりながら、今日も叫ぶ。


「占いやってまーす! 好きなの選べますよ〜!」





午後7時半。

ババアがカウントした客数は「8組」。ノルマ未達。

「今日、少ないね。じゃあ、200円」

ぽいっと投げられた小銭を、私は反射でキャッチ。ピンポン球かよ。


……これで今日の晩ご飯、どうしろっての。


そういえば、昼間のお客が「この先の小籠包、めっちゃ美味しい」って言ってたっけ。


中華街歴16年、ベテランのプライドにかけて行くしかない。


メニューを見る。

──小籠包、5個入り600円。

高っ! 私の財布には200円しか入ってませんけど!?

……一番安いのは「パンダ」ってやつ。200円ちょうど。

パンダって何? 動物園じゃないんだからさ。


「これ、なんですか?」

「これはパンダのパンね。おすすめよ〜」

……わかった、じゃあそれください。


「お待たせね〜」

小麦粉のいい匂いが漂う。包みを開けてみると──

白くてペラっとしたパンの上に、黒ゴマみたいな点が4つ。

……え、これでパンダ????


これが私の、今日一日頑張って稼いだ200円……?


「これで200円!? 高くない!? 百円返して!」

つい店員に怒鳴ってしまった。


すると、店員は鼻で笑ってこう言った。

「金ないんでしょ。仕方ないね」


……なんだと?


カチンときた私は、店員に掴みかかった。

私より20センチは背の高い男。でも、キレた私にはそんなの関係ない。

「てめぇ、もう一回言ってみろ」


騒ぎを聞きつけて、店の奥から別の店員が──

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