いつしか逃げるために生きることを選んだ、一人の罪深き女の末路

愛していた男を刺して逃げた女の末路。
時に夜の女として偽の名を振り翳し、度重ねてきた整形で刻みつけた五つの顔を内に秘め、逃げ続けた四半世紀。

自由で広すぎる牢獄のような世界の中を逃げるほどに大切なものを失っていく。
人生の大半をすり減らし、もう失うものなどないと言えるまで。

その心境は如何なものなのか。

果ては極地に訪れる潜在意識の諦観か。

あと8時間で時効を迎える。

その先に待つ未来に思いを馳せるほど、懐古的なまなざしに時間がとけていくようだ。

ノスタルジックな背景描写が支える哀愁の冬の日本海――凛冽なる雪風が高揚する女の心に問いかける。

淡々とした語り口が女の情念を執拗に艶めかせていく作者様の意欲作。
圧倒的な筆力で描いた孤独で儚い人生の縮図を堪能してみてください。

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