メモリアル・スレイヤーズ 二刀流と記憶をなくした歌姫

空海月 ヤネン

終焉、または始まり(プロローグ)

 世界の終わりって、隕石や大地の裂け目みたいな派手な光景を想像していた。

だが目の前にあったのは、見たこともないほど巨大で、不気味にうねる生き物だった。


「あおくん、私たち……どうなっちゃうの?」


声が震える。腕越しに伝わる温度で彼女の恐怖がわかる。


「大丈夫、俺が……きっと守るから」


そう言ったが、脚は震え、手のひらは汗で滑りそうだ。彼女の手を握っているはずなのに、どちらの手が震えているのか判らないほどだった。


「とにかく、逃げよう!」

そう叫んだ瞬間、世界の音が遠のいた。周囲に巨大な影が落ち、空を見上げれば、未知の獣が――まるで天そのものが怒りを露わにしたかのように、俺たちを見下ろしていた。


「あおくん、今までありがとう。大好きだったよ」


彼女の顔は泣きはらしているわけではない。静かで、だから余計に胸が痛む。


「俺も……」


言葉はそこで止まった。言いかけた「好きだよ」は、喉の奥で消えた。


光も音も色も、次の瞬間には全部、遠ざかっていった。

――そのまま、意識はふっと途切れた。

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