騎士団から弾き出されるモブキャラに転生した俺は、悪魔と共に世界を書き換える
すなぎも
プロローグ ―孤児院編―
第1話 転生・必要なスキル
またバッドエンドだ。
魔王を討ち果たした主人公達は王都で凱旋の祝福を受ける……はずだった。
だが、王都に帰ると騎士団に拘束され、英雄の名を利用され続ける人形となる。
その後、主人公達の姿を見た者はいない。
そんな説明の後に、画面には『BAD END』とでかでかと表示された。
「ふざけんなよこのクソゲー! なーにがEveryone Smilesじゃ!」
俺は思わずコントローラーを机に叩きつけた。
何度プレイしても待っているのは理不尽なバッドエンドばかり。
仲間に裏切られ、部隊長に売られ、騎士団長に襲われ、最後には悲惨な結末。
道中も事あるごとにバットエンドになるもんだから怪しいとは思っていたが。
「完全に釣られたぜ」
製品パッケージには主人公と背中合わせになる頼もしそうな仲間達。
主題歌中のPVでは襲ってくる騎士団長と修行したり、敵に情報を売る部隊長に励まされたり。
なんと言っても文句を言いたのは相棒である存在の少年剣士。
ノア・グレイスの存在。
主人公と共に戦争孤児として育ち、志を同じくして騎士団に入る。
発売前には女主人公とノアが共に成長する王道物語だろうと予想されていた。
だが、内容は全く違う。
ノアは序盤、騎士団編に入ったところで早々に追放されて退場。
彼は奈落というステージにいる悪魔に喰われてあっさり死んでいた。
これはRPGの皮を被った拷問ゲー。
仕事終わりの社会人にこれをやらせるというのは酷じゃないかい?
と製作者に問いかけたくなる。
「俺はなんでこのゲームやってたんだ……」
せめてゲームの中でぐらいみんなを救いたい。
ハッピーエンドで終わりたい。
現実ではそうはいかないから。
重そうな荷物を持つ老人を何度も素通りした。
道端で泣いている子供を見て見ぬ振りをした。
公園で泣いている学生を横目に帰宅した。
パワハラで押しつぶされそうになっている同僚に声を掛けなかった。
だから【Everyone Smiles】を買ったのに。
ため息をつき、時計を見ると朝の四時。
こんなゲームをやっていたせいで今日は寝不足確定。
仕事中、何度も睡魔に襲われるかと思うと気が重い。
現実逃避するように机に突っ伏す。
「せめて。せめて来世では。困った人を助けられるようになれればな……」
さっきまでのイライラは、睡魔ですぐに消えていった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「起きて」
耳元で、かすかな声がした。
どこか聞き覚えがある声。
「ノア! 早く起きないとごはんなくなっちゃうわよ!」
はっと目を開けると、そこは自分の部屋ではなかった。
「ここは?」
「まだ寝ぼけてるの? 早くごはんとりに行くわよ!」
そう言って俺に顔を近づけてきたのは。
「ノエル・エヴァンズ?」
「本当にどうしたのよ? いまさらフルネーム呼びなんて」
首を傾げているのは先ほどまでやっていたゲーム。
Everyone Smilesの女性主人公のノエルそのもの。
金色の長い髪を腰まで伸ばして、奇麗な蒼眼をこちらに向けている。
「でも、子供だ」
「なによ急に。ノアだって子供でしょ?」
ノア? それに子供?
慌てて辺りを見渡すと、そこはEveryone Smilesで見た景色。
ノエルとノアが幼少期に過ごしていた、王都の端にある教会そのもの。
「あっ。ちょ、ちょっとノア! いきなりどこに行くのよ!」
俺は部屋を出て、窓に反射する自分の顔を確認する。
赤い短い髪に青い瞳。幼い顔立ちに小さい手と短い脚。
「……俺がノアになってる?」
「まだ寝ぼけてるの? あなたはずーっとノア・グレイスでしょ」
「あ、ああ。そうか。そうだったな」
「ん? 変な顔。どうかしたの?」
「大丈夫。なんでもないよ」
なんとか声を返す。
頭の中ではぐるぐると考えが渦巻いていた。
俺は自分の部屋で寝たはずだ。
それがなぜか、このEveryone Smilesのモブキャラに転生している。
しかも序盤で死ぬ雑魚キャラに。
「なーんか元気なさそうだけど……。まあいいわ。行きましょう」
ノエルが小さな手を差し伸べてきた。
その手を握ると、確かな温もり。
「ああ。行こう」
もし仮に、ここが本当にEveryone Smilesの世界で。
俺がノア・グレイスに転生したのだとしたら。
それでもいい。
「ノエル」
「なによ。早くしないと貴重なご飯がなくなっちゃうわよ?」
「頑張って幸せになろうな」
「急になに?」
足を止めて振り返るノエル。
「当たり前でしょ。騎士になって、私も貴方も。ここのみんな幸せになるの」
「そうだ。みんな笑顔で過ごせるようにな」
「なんでそんなに偉そうに言うのよ?」
「偉そうに言ったわけじゃない。ただ、改めてそう思っただけだよ」
「そう、ならいいけど。それより今はご飯をもらうこと!」
「わかってるよ」
俺も負けじと走って彼女と肩を並べる。
「ノアの癖に生意気ね。私と並ぶなんて」
「今までみたいに足手まといにならないからな」
「へぇー。言うじゃない。別にいいけど!」
足を速めるノエルに負けじと全力で走る。
さすがに、魔王を倒す彼女には勝てない。
初期からノエルとノアではステータスに差があり過ぎた。
結局、手を引かれ、彼女の背を追いかける形になった。
それでもいい。
モブキャラ通り、後ろから彼女を支えて、みんなを笑顔に出来れば。
そう、せめてこの世界のキャラ達を笑顔に出来れば。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
食事を済ませたあと、俺は人気のない裏庭に出た。
瓦礫に囲まれた小さな庭。そこに腰を下ろし、深く息を吐く。
「思い出せ、この先の展開を」
俺が転生したのは、主人公であるノエル・エヴァンズの相棒キャラ。
戦争孤児としてノエルと共に育ち、同じ境遇の子供を増やさないように、騎士になりお世話になった孤児院にお金を入れようと心に誓い、剣を握り、やがて騎士団へと入団する。
そこまではいい。理想の相棒キャラと言える。
問題はその後だ。
「一年後、俺は騎士団に入る。そして内部告発をする」
主人公であるノエルは真っ直ぐで正義感の強いキャラだ。
だからこそ、騎士団に入ってすぐに不正に気付きそれを告発。
しようとするが、手柄を自分のモノにしようとしたノアが先にそれを告発する。
結果、それが上官達の逆鱗に触れる。
理由は上官達がその不正に一枚噛んでいたからだ。
表向きではノアは上官達に褒められる。
栄転だと持ち上げられて、その日のうちに転送魔法陣へ。
飛ばされた先は罪人を悪魔に喰わせるための処刑場、奈落だ。
「本来なら俺はここで死ぬ」
死ぬのが怖くなって騎士団から逃げ出したとノエルに伝えられ。
ノアは彼女の知らないところで悪魔の餌となる。
それが、ゲームのシナリオだ。
「だけど、俺はノアであってノアじゃない。だから同じ結末は迎えない」
理由はわからないが、Everyone Smilesのキャラに転生した。
だったのタイトルの通り、好きなキャラぐらい笑顔にしてやろうじゃないか。
「ステータスは……。出す方法がわからん」
わからんが、ノアはモブキャラ。
ゲームでの孤児院パートは数分で終わる。
戦闘描写は特にないが、ノエルとの訓練ではいつもボコボコにされていた。
ノエルが魔王を倒す主人公と言えど、まともな強さがあるならもうちょっとそれらしい描写があったはず。
正当な強さは期待できない。
そもそもノアがモブキャラ過ぎて情報が少なすぎる。
が、幸いなことに確実に発生するイベントがある。
「ピンチはチャンスって本当だったんだな」
ノアが悪魔に喰われるイベントだ。
ここを生かすしか方法はない。
悪魔は膨大な魔力を持ち、主食を人間としながらも奈落から出てこない。
その理由は、地上では生きていけないからだ。
マナと呼ばれる、魔力の元となる元素が悪魔にとっては猛毒となる。
というのは、裏ボスとして悪魔と戦うことができ、そこで説明されていた。
その戦闘はいわゆる負けイベント。
決して勝てることが無い戦闘。
だが、条件次第でルートが分岐する。
その条件が、ステータスである状態異常耐性を極限まで上げること。
悪魔の体力を一定値削ると、身体を乗っ取ろうとノエルに入り込んでくる。本来なら身体が耐え切れず弾け飛び、バットエンドになる。
だが、状態異常耐性が高いと悪魔の異質な魔力を身体に宿しても身体が壊れることがなくなり、悪魔に意識を乗っ取られてバットエンドになる。
どっちもバットエンドなんかい!
と切れ散らかしたのは嫌な思い出だが、それが俺の目指すところだ。
状態異常耐性を極限まで上げ、交渉で悪魔を身体に宿して共存する。
それしかモブキャラであるノア、俺がEveryone Smilesで活躍できる道はない。
足元に生えている雑草。その葉にはかすかに毒がある。
俺はその葉を指でちぎり、しばらく見つめた。
「少しずつ、慣れていくしかない」
状態異常耐性を上げるには、状態異常状態になる他ない。
「大丈夫。確か状態異常で死なないはずだ。行くしかない!」
思い切り口に含むと、すぐに舌の奥が痺れた。
喉が焼けるように熱くなり、胃酸が逆流するように食道を通る。
吐き出したい衝動に駆られるが、歯を食いしばって飲み込む。
「っぐ!」
胃の中で毒が暴れ回る感覚に、視界が滲む。
それでも痛みと吐き気に耐え、何度も何度も毒草を噛み続ける。
全身から冷や汗が噴き出し続けていたが――不意に感覚が鈍くなる。
「はぁ……。はぁ……。これは、スキルレベルが上がったってことか?」
生えた毒草をむしりとり、口に運ぶ。
舌に広がる痺れは確かにあるが。
「さっきほどじゃないか?」
舌は痺れる。胃はムカムカする。冷汗は出るし味は不味い。
それでも地面をのたうち回る程ではない。
「間違いない。マシになってる」
再び齧るが、飲み込める。耐えられる。立っていられる。
「今日はここまでにしておこう」
確かな成長。確かな一歩。
モブにすぎないはずの肉体が、確かに変わり始めている。
荒い呼吸を整えながら、俺は教会へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます