永遠のラブレター

森雨葵

お手紙

『この手紙を読んでいるということは、私はこの世にいません。』


 君が残した手紙の一文目は、僕に現実を押し付けてきた。

 僕が信じきれないことを見透かしていたのだろう。


『あなたに出会えて本当によかった。本当に心から思っています。』


 いつもの君なら、もっと砕けた文章を書くはずだ。

 この堅い感じはどこか、僕を突き放しているように感じる。


『あなたとの出会いは、病院の待合室でしたね。いつも、同じ本を読んでいたのを覚えています。』


 君から話しかけてきてくれたの記憶は、今でも鮮明に残っている。

 あの時、話しかけてくれなかったら、僕は一生孤独で退屈な人生を歩んでいただろう。


『私が話している時さえ、本を読んでいましたよね。私と本どっちが大切なの!?笑』


 そんなの君に決まっている。

 初めは、緊張してうまく話せないことを隠すために本を読んでいた。

 それでも君は、僕に一生懸命話しかけ続けてくれたことを覚えている。

 ──嬉しかった。


『たくさんお出かけもしましたね。たくさん美味しいご飯も食べましたね。』


 たくさん君との時間を過ごした。

 だけど、君と過ごす時間はあっという間だった。


『一番初めにお出かけした場所を覚えていますか?』


 ああ、覚えているよ。

 君と初めてお出かけした場所は、水族館だ。

 イルカショーで、はしゃいでいた君を見てたら、君は「私よりイルカ見てよ!」って頬を少し膨らませて怒ってきたのも覚えてる。


『でも、あえてここには答えを書きません。覚えていると信じてます。覚えていなかったら、夢に出て怒りに行きます。』


 忘れていたかったと、少しだけ後悔した。

 だけど、君は忘れていたら怒るのではなく、涙を流すだろう。


『最後にあなたともう一度、初めてお出かけした場所に行きたい。でも、私の体はそれを許してくれないそうです。』


 僕も君と行きたい。

 君と二人で出かけたい。

 君と──


『もっと、あなたと過ごしたかった。もっと、あなたのそばにいたかった。』


 泣くな……僕。

 君に泣いている姿なんて……見せられないのに……


『あなたの手を握りたい。あなたの顔がみたい。』


 僕も君の……手に触れたい。

 近くで君の笑顔が見たい。


『もし一つだけ願いが叶うとしたら、あなたを抱きしめたい。』


 僕もだ。

 君を抱きしめたい。

 ほんの一瞬だけでもいい。


『私の人生を華やかにしてくれてありがとう。空からあなたを見守っています。』


 目尻に涙が溜まって手紙の文字がよく見えない。

 拭き取っても拭き取っても、涙が止まらない。

 だけど、最後の一文ははっきりと読めた。









『大好きです。』

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永遠のラブレター 森雨葵 @moriaoi1225

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