第12話

「虹斗……怒ってたよね?」


歩道を歩きながら、僕——桜野春渡は独り言つ。


去り際の虹斗の顔を見て、気付いてしまった。僕が虹斗を怒らせた。今日だけじゃない、今まで何度も。

自分でやったことの筈なのに、胸が締め付けられる様に痛い。


自業自得過ぎて自分でも笑えてくる。


分かっていた。虹斗に嫌われていることは。

だから僕は失いたくなかったんだ。彼との関わりを。彼は推しだから。僕の、正真正銘の推しだから!


虹斗との幼馴染っていう関係性、僕は大事にしてた。大事にしてるつもりだった。それを口実に、僕は虹斗の隣に居れる。もちろん宵華とも一緒に。


だから浮かれてたのかな? いつも宵華には僕と虹斗がバリケードを作ってるし普段は宵華、前髪も降ろしてるから。男子なんか寄ってこなかった。


僕はずっと三人で居たかったんだ。もちろん、虹斗が宵華を好きなことも分かってる。僕だって宵華が好きだ。

それでも、今までみたいに三人で一緒に笑っていたかった。宵華がどっちかのものになんて、なって欲しくなかった。


もし僕が告ってオッケーされたら、宵華は僕のものになる。そしたら虹斗が悲しむなんて、分かり切ってる事だ。

だからって逆は? 僕は許せないよ。宵華が虹斗だけのものなんて、絶対に。


虹斗は、怒るかな。滅多に怒らないんだよ、彼は。だから、もし僕と宵華が付き合っても、悲しくなりはするだろうけど怒りはしないと思う。


でも僕は怒らせた。


もう嫌だよ。なんでこんなことになっちゃったんだっけ? ——ああそうだ、自分の所為だ。僕が意地悪ばっかりしたから。虹斗の告白を妨害したから。


……そこが、僕と虹斗の違うとこ、かな?


最初から負け確だった。分かってたけど認めたくなかった。僕だって、虹斗と同じ宵華の幼馴染だ。その事実は変わらないのに、僕と虹斗は最初から違った。


だから、宵華は虹斗を選ぶと思ったのに。




イケメンって、本当に誰のことなんだろう?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


俺——東雲虹斗は、家へ歩きながら先程の自分の大人げない行動に頭を抱えていた。


冷静に考えてみろ。本人に対して『嫌い』だなんて、言って良い言葉じゃなかったんだ。確かに嫌いなところはあるけれど、春渡のことは全体的に言って嫌いじゃない。

なのに俺は、嫌なところばかり摘まんで言った。言ってしまった。


今回ばかりは、思っていたことを反対で言ってしまう俺の嫌な癖じゃない。完全に俺の所為だ。


——春渡、悲しんでるかな。


少なくとも春渡が俺を嫌いじゃないっていうのは分かっていた。いつも笑顔を向けてくるし、何かと構ってくる。

そんな春渡を、俺は自分で突き放してしまったんだ。


大人げないと思わないか? たった一度の告白を妨害され、少しちょっかいを出されたくらいで何が『そういうところ』だよ! 今日最後に見た春渡の顔は明らかに傷ついた表情を浮かべていた。


だからって今から春渡の家に向かえる訳でもない。気まずすぎる。こんな状態で会ってしまったら、きっと俺はまた逃げ出してしまう。


そんなことをぐるぐると考えていたら家に着いてしまった。


「おかえり~虹斗」

「……ただいま」


いつも通りののんびりとした虹映姉ちゃんの声が聞こえて、上の空のまま返した。

珍しく料理をしていたらしく、キッチンからエプロン姿で廊下に出てきた姉ちゃんは眉をひそめていた。


「どうしたの、虹斗。話なら聞くよ?」

「ううん、大丈夫」


姉ちゃんの親切さは心の支えになるけれど、今は話せる感じではない。これはきっと、俺と春渡で解決しなければならない話だ。


だからといって仲直りできる術が思いつくわけでもなく、俺はまた頭を抱えた。

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Our Bond Novel Relay~私たちの絆が物語を紡ぐ~(こよはるサイド) こよい はるか @PLEC所属 @attihotti

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