誤って呪いをかけられたボク〜呪いのせいでTSしてから、皆の目の色が変わったように思えて怖いです〜

@Ryuta527

第1話 そもそもあんた誰よ

「あ、あなたがっ!あなたが悪いんだからっ!!!!」


 女子生徒の絶叫が廊下に響き渡る。


 今日は楽しみにしていた新刊の発売日で、ボクはホームルームが終わるなり教室を飛び出した。


 普段であれば、こうして教室を真っ先に飛び出していくのは、クラス、いや学年一の人気者である五十嵐くんのはずなのだ。強豪であるうちの男子バレー部にスカウトされる形で入学してきたという未来のスーパースターは、本当に部活が大好きなようで、毎日元気よく教室を飛び出していく。


 けれど、今日ばかりはその五十嵐くんをも追い抜く勢いで席を立ったのだった。


 やっぱり、いつもと違う行動は取らない方がいいね。


 結果として、ボクは教室のドア越しに隠れて待ち伏せしていたのであろう、見知らぬ女子生徒から奇襲を受けることになった。


 まず人が居たことに驚いて身を固め、どう見てもうちの制服じゃないその子の格好に困惑し、彼女の絶叫をぶつけられて頭が真っ白になった。


 厚い前髪の下に見える目はどこか濁っているように黒く澱んでいて、目元には濃い隈が浮いていた。腰まで伸びたボサボサの髪、両手の爪は真っ赤に染まっていた。


 その女子生徒は、膝から崩れ落ちるボクの姿を見るなり目を見開いた。



「…………間違えた」



 は?



「間違えた間違えた間違えた間違えた間違えた間違えた……」



 小さくも焦るように、早口で何度も何度もそう口にしては後退る彼女。


 ミミズがのたうち回ったような赤文字が記されたお札のようなものを片手に握りしめ、その手でそのままボクの股間を殴打しておいて、コイツは何を言ってるんだろうか。


 痴話喧嘩か何かかと、ヒソヒソと笑うような声が耳に入ってくる。どうやら彼女の叫びを聞いて他のクラスの生徒たちが様子を探るように廊下へ出てきたらしい。


 ボクはすぐにでもその場から逃げ出したかったけれど、下腹部に異物が飛び込んできたような、そんな独特な強い吐き気が襲ってきて、その場でただうずくまることしか出来なかった。



「あれ、姫神ひめがみ……?おい、どうした!?」



 誰もが少し離れたところから他人事のように見つめていた中、真っ先にボクのもとへ駆け寄って来てくれたのは、例の五十嵐くんだった。



「ぐっ、うぅ……」



 入学したばかりの頃に一言、二言くらい話しただけなのに、ボクの名前を覚えててくれたんだ。人気者はやっぱり違うなぁ。いや、未だに名前がすぐに出てこないクラスメイトが居るボクの方がおかしいのか。


 そんなどうでも良いことを考え続けていないと、すぐにでもお腹の中のものが出てきてしまいそうなくらい、得体の知れない気持ち悪さが身体の内側にじわじわと広がっていく。



「あっ、おい!!!!」



 珍しく怒りの色を含んだ五十嵐くんのその声に、思わず顔を上げると、あのボサボサ頭の女子生徒がこちらに背を向けて走り出したところだった。


 ボクもその背中に何か言ってやろうかと思ったけれど、もう限界が近づいていた。


 お腹から何かがせり上がり、胸を圧迫するような感覚を覚えた直後、何かが逆流し、喉が絞られるようにして口からそれが流れ出した。


 次々と廊下に響く悲鳴。


 うるさいなぁと思いつつも、すぐにそれが段々と小さくなっていき、視界がぼやけていく。



「―――――――!!」



 最後に見えたのは、ボクを慌てて横向けに寝転がそうとする五十嵐くんの顔だった。


 なんか、昔もこんなことがあったような気がする。詳細には思い出せないけれど、昔もこんなふうにどっかでぶっ倒れて、こうして誰かに介抱されて。その時の子も、今の五十嵐くんみたいに不安げに眉を下げてたっけな。


 これ走馬灯とかじゃないよね。流石にね。だって過去にもボールを股間に打ち付けたり、ジャングルジムから落ちかけて股間を打ってしまったりしたことあったし。今回だって大丈夫なはず。


 あれ、なんかボク毎度股間ぶつけてる……?走馬灯見るにしても、全部結局股間打ち付けてるな。走馬灯って今の危機的状況から抜け出すための解決策を過去の記憶から必死に探そうとしてる状態だって聞いたことあるんだけど。


 ボクの走馬灯、全部事後だな。てか、今も走馬灯見るにしてももう股間殴られた後だしな。


 ボクの鼻水やら唾液やらで制服を汚してしまって本当に申し訳ない。五十嵐くんも、まさかボクがそんなマヌケな考え事をしていたなんて思っていないだろう。


 我ながら最後までどんくさかったなぁ、なんて思っているうちに、ボクは意識を手放してしまった。

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