後日談 「 夏、空青く 」

 丘へ続く一本道があった。


 細枝が空を張る果樹園の間の道を、男女が並んで歩いていた。男は長身で黒髪。女は小柄で金髪。言い合いながら、はるか遠く、水も滴るような山の青さに向かって進んでいく。


 太陽がかっと照りつける炎天の暑さ。じっとりとまとわりつく汗と髪が鬱陶しい。クロードは汗を服の裾で拭った。今すぐ冷たい川に飛び込みたい。心からそう思うも、声に出す気力は既にない。隣を歩くシルエラ共々、すっかり黙り込んでいた。


 先程まで、頑固者同士一歩も引かずにくだらないことで言い争っていたものの、じりじりと照りつける灼熱の日差しと暑さに勝てるはずもなく、クロードは怒鳴る体力と気力を失っていた。負けん気の強さで噛みついてきたシルエラも口を閉ざし、今は大人しく歩いている。


 途中、道端に大きな木を見つけると、二人は我先にと木陰に入った。日陰の下、青い葉を抜けてくる風は爽やかだった。涼しさにほっと人心地つく。


 暑いわね。ああ、暑い。何度繰り返したかわからないやり取り。

 木陰で一息ついては再び歩き出す。家の屋敷まではまだ遠い。こんなことなら、果樹園まで馬でくれば良かった。後悔しても遅い。


 ああ、喉が乾く。クロードは喉を潤すものを探して、茂みに黄色く熟れた実を見つけた。いかにも太陽を浴びて育ったような野性的な実をつまみ、口に放り込む。酸っぱい。とっさに眉をしかめていれば、あ、私もー、とシルエラも白い指を気楽に伸ばしてくる。

 シルエラはクロードの顔つきにまるで気づかず、ぷちりと黄色い実を摘んで──案の定、酸っぱさにぴゃっと目を丸くした。けらけらとクロードがからかえば、もうっ、とシルエラが軽く憤慨してくる。


 名の通った商家の息子とその結婚相手。下町の子どものように道端の草の実を食べ、青空の下で笑い声を響かせる。父や長兄には見咎められそうだが、執事と使用人たちは笑って許してくれるだろう。屋敷に帰ったら、彼らにうんと冷たいレモネードを作ってもらおう。午後はテラスで避暑だ。そんなことを考えていたら、ますます瓶入りのミネラルウォーターが欲しくなった。


 クロードは適当に酸っぱい実を齧っていた。隣に立つ、自分より頭一つ分低いシルエラも似たような顔で咀嚼している。ふと、金髪が滑り落ちる白く健康的な首筋が目に入り、惹き寄せられる。つ、と音もなく滑り落ちる汗。艶を放つ水滴に、喉が水を求めてこくりと動く。ああ、やっぱり喉が乾いた。


 シルエラ。名を呼べば、顔が上げられる。唇に口づけた。ぽとり。シルエラの指先に摘まれた果実が落ちる。


 強い風が吹いた。ざざあ、緑が潮騒にも似た音を立てる。

 だれもしらない、彼と彼女の帰り道。

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