エピローグ

二人の冒険 「夜明けの太陽」

「来るぞ!」

 

 草むらから飛び出してきたゴブリンが、粗末な棍棒を振りかざす。

 創真は慌てて剣を構える。心臓が速く打ち、膝が震える。昔なら一振りで決着がついた相手に、ここまで緊張するなんて――。

 

 剣と棍棒がぶつかり合い、耳に響く衝撃音。力負けしそうになりながらも、彼は必死に踏みとどまる。

 

「セレーネ、後ろから!」

 

「心得た!」

 

 彼女は杖を振るい、小さな火花を散らす。かつての大魔法はもう使えない。それでも、掌に宿る炎はまだ消えていなかった。

 ゴブリンの顔に火が弾け、奴がのけぞった隙に、創真は剣を振り抜いた。

 

 まずは一体。

 

 息を荒げ、肩で呼吸する。たった一体を倒すのに、全身が汗で濡れていた。

 すぐに次の二体が迫ってくる。創真の脚がもつれ、地面に転がった。

 

「創真!」

 

 セレーネが駆け寄る。彼女の炎で一匹を退けるも、残りが牙を剥く。

 もう駄目か、と一瞬よぎった。けれど次の瞬間、創真は立ち上がっていた。

 握る剣が震えても、視線は逸らさない。

 

「勇者じゃなくたって、お前なんかに負けるかよ!」

 

 そう呟いて、突き出した剣がゴブリンの胸を貫いた。

 血が飛び散る。生々しい感触に吐き気を覚えながらも、最後まで力を込めて押し込んだ。

 ゴブリンが崩れ落ち、戦いが終わる。

 

 二人はその場に座り込み、しばらく言葉を交わせなかった。

 荒い呼吸と、鼓動の音だけが響く。

 

「……強かったな」

 

 ようやく創真が笑みを漏らすと、セレーネも苦笑を返した。

 

「勇者でも魔王でもない我らには、あれが精一杯だな」

 

「でも、勝てた」

 

「ああ。共に戦えば、な」

 

 そうして見合わせた瞳には、敗北ではなく確かな誇りが宿っていた。

 夕暮れが迫る頃、村へ戻った二人は小さな報酬を受け取り、宿の一室で疲れ果てて眠った。



 ◇



 

 そして翌朝。

 

 まだ東の空が淡く染まり始めたころ、創真は目を覚ました。

 窓から差し込む光に誘われ、外に出る。

 丘の上に立ち、振り返ると、そこにはセレーネがいた。

 

「こんな時間にどうしたのだ?」

 

「いや、なんとなく。……ほら」

 

 創真が指差す先、水平線の向こうから太陽が顔を出す。

 夜の闇を押し退け、世界を黄金に染める光が広がっていく。

 セレーネはその光景に目を細め、かすかに息を呑んだ。

 

「……こんなに美しいものを見るのは、初めてだ」

 

「そうか」

 

「魔王であったころ、余は人々に恨まれ、暗闇にしか生きられなかった。夜明けを憎んでいた……。だが今は――」

 

 言葉を途切れさせ、彼女は微笑んだ。

 創真はそんな彼女の横顔を見つめ、自然と答えがこぼれる。

 

「じゃあ、これからは一緒に何度でも見よう」

 

 その言葉にセレーネは目を見開き、やがて小さく頷いた。

 二人の影が、昇る太陽に向かって伸びていく。

 

 新しい旅路は始まったばかりだ。

 

 勇者でも魔王でもない、ただの創真とただのセレーネとして。

 まだ見ぬ未来に向けて。

 

 夜明けの太陽とともに。



――――――――

あとがき


最後までお読みいただき誠にありがとうございました!

本作は改稿しMF文庫ライトノベル新人賞に応募中です! ぜひ★レビューやコメントから応援していただけると幸いです!


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長い物語でしたが、ここまで本当にありがとうございました!

また次の作品でお会いしましょう!

                  ——駄作ハル

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RTA走者の異世界最速攻略記〜まずはすり抜けバグで魔王城に行き、グリッチで魔王《ラスボス》を仲間にします〜 駄作ハル @dasakuharu

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