俺の魔法

天坂 透真

第1話 俺には俺の魔法がある

夜風が冷たく感じた。

流刑を告げられたその夜、アキラは黙って荷をまとめていた。

胸の奥はざわついているのに、手の動きは不思議と静かだった。


コン、コン、と扉が叩かれる。

開けると、ミラが立っていた。

泣きそうな顔を無理やり笑顔にして、両手を握りしめている。


「……どうして? 魔法が使えないのに、どうしてあなたはそんな顔をしていられるの?」


アキラは少しだけ目を伏せ、それからゆっくりと首を横に振った。

「魔法がなくてもいい。俺には俺の魔法があるから」


ミラが言葉を失う。

その瞳に映るアキラの笑みは、どこか不器用で、でも揺るがなかった。


「俺の魔法は——みんなを笑顔にできることだ」


その一言に、ミラの瞳が潤む。

涙が零れそうになっても、彼女は必死にこらえた。


アキラは荷を背負い直し、背中を向けた。

夜風が彼の声をさらっていく。


「だから大丈夫。流刑の先にだって、きっと意味がある」


その背中は小さく見えた。

けれど、決して折れてはいなかった。


——魔法がなくても、自分だけの魔法を信じている限り。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の魔法 天坂 透真 @eiji14

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ