聖剣と無敵の勇者

藍色なお

第1話

「これで最後だ!!」


 勇者が聖剣を振り下ろすと、魔王に向かって光の軌跡が真っ直ぐに伸びる。


「ぐがぁっ!」


 纏っていた黒いオーラが消滅し、胸を切り裂かれた魔王が断末魔の叫びを上げる。


「やった!」

「流石は勇者様!」

「当然の結果だね」


 魔法剣士が喜びの声を上げ、聖女が勇者を讃え、賢者が偉そうに頷く。


「まだだっ!」


 パーティーメンバーに向かって勇者が叫ぶ。


「このままでは終わらん!貴様らも道連れだっ!!」


 魔王から黒いオーラが吹き出す。

 勇者は白いオーラを纏って防ぐが、黒いオーラは他の三人を目指している。


「くっ、聖剣の力が足りない!皆、少しだけ耐えてくれっ!」


 勇者が聖剣で黒いオーラを切り裂くが、それよりもオーラが拡がる方が早い。


「きゃあっ!」

「聖女様っ!」


 聖女へ伸びるオーラを魔法剣士が炎を纏わせた剣で切るも、聖剣のように消し去る事は出来ない。


「クソッ!」


 なんとか炎の剣でオーラを切り払っているが、千切れたそばから元に戻るため魔法剣士が口汚く叫ぶ。


光の矢シャイニングアロー!」


 賢者が光魔法を放ち僅かにオーラを消し去る事で、聖女が結界を張る時間が稼ぐ事が出来た。


聖域サンクチュアリ!!」


 なんとか三人を包み込む結界を張れたが、既に力を使い過ぎているため、いつまで持つかわからない。


「くははは、無駄だ」


 魔王が嘲笑い、黒いオーラが結界を包み込んで徐々に侵食していく。


「勇者様、お願いいたします!」

「勇者っ頼んだ!」

「勇者なら出来るさ!」


 だが三人は勇者を信じて託す。


「皆の想いがあるから、オレは絶対に負けない!今度こそ最後だ魔王!!」


 仲間を信じた勇者が、最後の力を込めた聖剣が眩しく光輝く。


最終奥義ラストオーダー究極聖光剣アルティメットセイントセーバー!!」


 一際眩しい光が全ての黒いオーラを消し飛ばし、魔王をも飲み込んでいき何も残さず消え去った。





「って夢を見たんだ」

「へえ。お前に勇者願望があったとはな」


 俺が昨日見た夢の話をしたら、幼馴染み腐れ縁なら茶化して来るのは解っていたが、やはりイラッとするな。


「いや、俺は勇者じゃなかった」

「そうなんだ?」

「ああ」


 俺が勇者って柄じゃないのは知ってるだろ。


「なら、極悪魔王?」

「ちげえよ」


 てか、勝手に形容詞を付け足すな。


「まさかの聖女?」

「なんでやねん!」


 TS願望はない。


「なら、魔法剣士か賢者か」

「どっちでもねえ」

「どゆこと?他に登場人物いなかったよな?」


 そう思うよな。


「初めからずっと出てたよ」

「ん~?わからん。ヒントくれ」

「勇者と言えば」

「剣持ってて、派手な鎧にマントひらひらさせてる?」


 発想が貧困だな。

 いや、俺も人の事は言えないけど。

 夢の中の勇者は赤いマントしてたわ。


「だいたい合ってる」

「他はパーティーメンバーに魔法使いや踊り子に盗賊とかいるのか?」

「そんなヤツは出てないだろ。ちゃんと話した中に居たぞ」

「ええ?登場人物は全員違うんだろ?」

「そうだな。登場人物じゃないな」


 ほら、ラノベでもたまにあるだろ、そんなアイテムが。


「わかった!アレだろ?」

「そうそう。アレだよ」

「黒いオーラ」

「なんでやねん!!」


 そんなボケいらんわ!


「冗談だよ。アレだろ、聖剣」

「ピンポンピンポン♪正解です」


 そうなんだよ、何故か聖剣視点で夢見てたんだよ。

 夢の中まで影が薄い存在とか、俺らしくて涙が出るね。


「でも、お前が聖剣なら勇者は無敵だな」

「何言ってんだか」


 勇者の顔がコイツにそっくりだった事は、絶対に言わない。

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聖剣と無敵の勇者 藍色なお @rom-senyo

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