優しい
お茶漬けサラサラ
優しい
「ああ、それはね。」
優しい声、柔らかい笑顔で先輩はそう言ってから僕に魔法の使い方を教えてくれた。
「何回聞いても良いから積極的に質問してね!」
物覚えが悪い僕に対しても怒らずキラキラした笑顔で接してくれる先輩。
ここに来るまでは怒られてばかりだったからこういう人に恵まれて良かったと心の底から思った。
「今日はここまで!また明日ね!」
「はい!ありがとうございました!」
先輩が帰った後、僕はメモを開いた。
忘れる前にもう一度復習しよう。
僕は忘れっぽいから普段からメモを取るようにしている。
だが僕は書くのが遅いためどうしてもメモに抜けが出てしまう。
だからこうして早めに補う必要があった。
略語や記号を使えばいいのだがそうしたメモを僕は読めない。
この略語は本当にこの意味で使ったのか。
この記号は書き間違いではないのか。
そんなことを考えてしまい不安になる。
なので僕は教えられた内容を短くまとめることなんてできなかった。
この書いてある数字は何の数字だっけ。
ここの単語は何を指していたんだっけ。
ここの比率ってこれで合ってるんだっけ。
次から次へと出てくる僕のメモの抜け。
覚えているところは必死に補った。
でも、忘れてしまってどうしてもわからないところがある。
どうしよう。覚えてないと怒られる。
過去のトラウマが思い出される。
僕は急いで頭を振った。
質問しただけで先輩が怒るわけがない。
何回でも聞いていいって言ってたから怒らないはずだ。
明日もう一度ここを確認しよう。
ちょっと確認するだけなら許されるだろう。
「あの、こういう時の水魔法と風魔法の比率ってどれくらいでしたっけ。」
次の日僕は質問した。
「それはね。」
先輩は暖かい声と笑顔でそう言って僕に教えてくれた。
良かった、怒ってない。
僕は安心した。
明日はいよいよ実践だ。
その日の夜、僕は改めてきちんと復習した。
気づいていない抜けが無ければ実践は上手くいくだろう。
今日は実際に魔法を使う日だ。
失敗したらとんでもないことになる魔法だから慎重にいかないと。
念のため、使う前に合っているかの確認だけしよう。
「あの、こういう時の水魔法と風魔法の比率って1対3で合ってますか。」
「うん、合ってるね。」
先輩の声を聞いて僕は固まった。
僕は恐る恐る先輩の方を見た。
「ねえ、そろそろ質問しないでもいけるようになろうか。」
先輩は笑顔でそう言った。
先輩は笑っていた。
ちゃんと笑顔だったと思う。
冷たかった。
優しい お茶漬けサラサラ @ochazukesarasara
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