静寂

 コツコツ。コツコツ。

 

 コツンッ⋯⋯コツンッ⋯⋯。


 歩みを止めると同じように足音も止まった。


 苛立ったように歩く。


 ⋯⋯カッ⋯⋯カツンッ⋯⋯コツッ⋯⋯コツッ⋯⋯。


 不規則であれ規則的であれ、足音は寸分の狂いもなくついて回った。

 


 足音に振り返った。

 

 ──誰もいない。


 真っ暗闇がぽっかり口を開けているのみ。


 進んでいるのだろうか?


 それとも⋯⋯⋯⋯、なんて思うほどに。


 段々、感覚が麻痺していくように、思えてならない。それでも、気のせいだ、気の迷いだと言い聞かせ歩き続ける。

 


 ──いったい、どこへ?


 足場が崩れ落ちるような感覚に苛まれる。


 ──どうして?


 どうして、か。

 ■■は本を読んでいた。


 それなのに、気づいたらここにいた。


 ただ歩かなければ、そう、思って。

 歩き、ふと、気づいた。


 ここはどこ?

 

 誰かに追われている気がする。

 いや、追いかけているような気もする。

 


 ■■は、何をしていたんだっけ?


 やみくもに歩いて止まって。

 再び走り、止まった。


 どこへ行けば?

 どこへ向かうべきなのか?


 何かのライトに照らされたように空間が薄く光っている。


 この先へ行けばよいのか?


 答えなど知らない。

 笑いたいんだか泣きたいんだか、自身でさえもわからなくなっていた。


 向かう以外選択肢はない。


 どのくらい歩いていたのかわからないけれど、どこでもいいから。さっさと休みたかった。もうずっと長い間歩きっぱなしでつらい。


 

 どれだけ、歩いてもライトは近くならない。ああ、馬鹿にされているのかもしれない。それでも他に縋るべきものも、また無かった。



 ──痛い、疲れた。

 ──もう、休みたい。なんでもいいから、楽になりたい。


 焦りだけが突っ走る。

 ■■はどうしたらいいのだろう?


 

「ここにいる、助けてくれ」


 声になっていたかは定かじゃないけれど、声の限り叫んだ。


「お願いだ! 誰でもいい■■はここにいる!」


 喉が千切れんばかりに叫んだ。

 


 あなたは、ページをめくる。

 最後のページをめくりながら、最後の一行を目で追いかける。



 

 ■は足音に振り返った。


 ──誰かいる。

 

 ──ここはどこ?


 確か、本を読んでいたはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る