カクコン11短編『ノイズ』

宮本 賢治

『1 分小説』

「あれ?」

「ん、どした?」

「いや、今、目こすったら、コンタクト外れた」

「え! 大丈夫?」

「ちょっと、コンビニ入るわ」

 休日のお買い物。

 最近、買ったウチの新車。

 国産のSUV

 車好きの旦那が選んだ。

 ゴマ豆腐みたいな、クリーミーな灰色。 

「ゴマ豆腐みたいでかわいいね♡」

 わたしは褒めたつもりなのに、旦那はご機嫌ななめになった。

 ユーモアのわからん奴。

 わたしは影で、ウチの車を

『ゴマ豆腐1号』

 と呼んでいる。

「ダメだ。コンタクト、完全にロストした。片目じゃ、危ないな。

ね、運転してよ」

「え、ヤダ!!

わたし、ブイブイのペーパードライバーだよ。

大事な車、ぶつけちゃうぞ」

「大丈夫!

最近の車はセーフティ機能がスゴいから」

 旦那はさわやかに笑った。

 何で、こうなる。

 休日の楽しいお買い物が一変。

 死のドライブだ。

 わたしと旦那。

 運転席と助手席交代。

 わたしがシートの位置を直そうとすると、あわてて声をかけられた。

「あ、シートポジション変えないで!」

「何で、運転しづらいじゃん!」

「そのポジション出すのに苦労したんだ! だから、そのまま乗って」

 わたし、身長156センチ。

 旦那、180センチ。

 ムダにデカい。

 乗ってみると、すべてが遠い。

 傍から見ると横柄な人に見える。

「何か、優雅なスタイルだな」

 旦那の一言がムカつく。

 好き好んでこんなポジじゃないわい💢

 さあ、買い物の帰り道。

 さっさと帰ろ。

 信号待ち。

「ん?

何か、ハンドルがあっつい!」

「あ、ステアリングヒーター入れたな。

その右の下にあるスイッチだよ」

 ステアリングって、何だよ。

 しかも、スイッチだらけじゃん。

「え、どれ?」

「その、右のACCのスイッチの下だよ」

「ACCって何!

どれのこと?」

 交差点の先頭。

 交差する車線の信号機が黄色に変わる。

 焦る。

「だから、その右側のだって!」

「アンタの右とわたしの右は違うんだよ!」

「んなわけないだろ。

バカだな」


 バカ。


 あったまきた💢

 ハザードのスイッチを押す。

 運転席を開ける。

「バ〜カ!!!」

 バーン!

 そう言って、思い切りドアを閉める。

 信号が青になった。

 信号待ちの車から、クラクションが鳴る。

 一瞬、旦那の叫び声が聞こえたような気がしたけど、すぐクラクションにかき消された。

 わたしは振り返ることなく、その場を去った。

 さらばだ、ゴマ豆腐1号!


 飛び込みで入ったカフェ。

 スマホ決済ができることを確認。

 だって、お財布無いもん。

 お、頼んだマフィンとミルクティーがきた。

 スマホがずっとブーブーと振動して、うるさい。

 ノイズだ。

 わたしはスマホをシャットダウンした。

 優しく流れるジャズを聞きながら、優雅なティータイム。

 クソ旦那め💢

 ムカつく。

 ミルクティーを一口含む。

 優しい味。

 やり過ぎたかな?

 ゴメンね。

 わたしはマフィンにかぶりついた。


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