勝手に家に上がり込んでくる後輩がいる



今のオレは…自室で悩んでいた。



「まさかあんなことを言われるとは…」


今日会ったことを振り返るのは難しい。というか情報量が多すぎてまだ脳が処理しきれていない。




「はぁ…つかれた」



全部、自分の所為だということは分かっている。それにしても事が大きくなりすぎだ。こうなってくると事を収拾させるにはかなりの時間と労力が必要になってくる。





「明日のためにも…しっかりと寝ておかないと」




目をこすりながら体を起き上らせると俺は一つの違和感を覚える。


なぜか布団の中に不思議と膨らんでいる場所があった。



「どういうことだ…」


俺は恐る恐る、布団をめくってみた。




そこにはダンゴムシのように包まっている、東江さんがいた。


「なんでここに東江さんが…」


昨日の記憶を必死に遡っても東江さんのことを家の中に入れた覚えはない。なのに現実として東江さんはオレのベッドで寝ていた。


本当は今すぐにでも東江さんのことを起こしたいけど、東江さんが気持ちよさそうに寝ているのでここは一旦止めておこう。東江さんが起きた時になんでオレの家にいるのかと聞けばいいだけだ。

正直、普通に考えれば後輩が勝手に上がり込んでいたら慌てるべきなのかもしれないが、オレと東江さんの関係を考えればそれぐらいじゃ焦らない。



オレはなるべく音を立てないようにベッドから下りてリビングへの向かった。




「今朝の朝食は2人分作った方が良いのか………作っておくかな」


まあ作って食べなかったらオレが2人分食べればいいだけだ。





それからはいつものように料理に取り掛かる。2人分に増えたからといって時間に違いはさほどない。程なくして料理は完成したので机の上に並べていくが、東江さんはまだ起きて来る気配はない。


「待っていても仕方ないし、先に食べてしまうか」


オレは椅子に座って、手を合わせ「いただきます」と言い終わり、食べ始めようとしたタイミングで大きな叫び声が聞こえた。そしてそれはオレの寝室の方から聞こえたこともあって、箸を置いて向かうことにした。




寝室に着くと…東江さんが床に寝ていた。



たぶん、この様子から想像するにさっきの音は東江さんがベッドから床に落ちた時の音か。



「それにしてもあれだけの音がして起きないってすごいとしか言いようがない」


起きないのなら無理に起こす必要もないのでオレはまたリビングへと戻る事にした。








結果的に東江さんが目を覚ましたのはオレが朝食を食べてから1時間後だった。そしてまずは朝食を食べてもらってからソファーに座りながら昨日のことを聞いた。


「それでまずは…東江さんがオレの家にいた理由を教えてくれないかな?」


オレと東江さんは結婚をした。なのでオレの家に入ってきたことに関しては別に普通だ。だがその方法だ。俺と東江さんはこれから同棲することにもなっているので今の家の合鍵は渡していない。



「…あ、それなら作ったんだ」



「作った?」



「うん。前に一度だけ私が四十万先輩のこのお家に入ったことありましたよね。その時にここの鍵をもらって合鍵を作ったんです」



「え…?」


東江さんが当たり前のように言い過ぎてこっちが反応するのに時間が掛かってしまった。



「私と四十万先輩は結婚していますし。でも今はまだお互いの家で暮らしているわけだし、その前に四十万先輩が体調不良とかになって看病が必要になったら合鍵とか持ってないと不便ですからね」



「…そ、そうだよね…。でも、それなら合鍵を作りたいと言ってくれればオレが作っておいたのに」


オレは別に合鍵を作ることに対して否定的なわけではない。ただそこまで経たず、2人で一緒に過ごすことになるのでこの家の合鍵を渡す必要はないと思っていた。



「あ、そうですよね。しっかりと伝えるべきでした」



「次から言ってくれ」


これは口には出せないが、ちょっと怖いと感じた。一週間前に家の鍵を紛失したことがあった。まさか東江さんが持って行っていたとは思いもしなかった。



「はい、わかりました」


そしてこの話はここで終わった。




「私と四十万先輩は結婚していますよね?」



「そうだね」



「それなら私はちょっと我儘を言ってもいいですか?」



「叶えられる範囲なら叶えたいと思ってるよ」


さすがに合鍵の時みたいに知らず知らずのうちに何かをやられるよりも話してくれた方がまだいい。



「じゃあ、私の頭を撫でてくれませんか?」



「分かった」


オレは人を撫でる機会というものに、そこまで恵まれていないので加減が分からないが、出来る限り加減して触ることにした。髪の毛はかなりデリケートなゾーンなのであんまり触れたくないというのは本音。



「これでいいかな?」



「大丈夫です。四十万先輩に撫でてもらえると…落ち着きます」



「それならよかった。東江さんの望みを叶えられたようで」



東江さんの顔を見るととても気持ちよさそうだったので、これ以上なにも言わないことにした。






絶対、東江さんには言えないことがある。



こんなことを言ったら絶対に東江さんを悲しませることになるし、他の3人に対して不信感を持ってしまうかもしれない。それだけはどうにかしてでも避けなければいけない。



あの3人から…「妊娠させて欲しい」と言われたことは。



断りたい気持ちは山々だが、3人とも最後に「断らないよね。責任を果たしてくれるんだもんね」とか言ってたんだよな。





本当にオレはどうすればいいんだよ。


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