第48話:藤沢 詩織

舞浜での夢の一日から、私とパパの関係は少しずつ変わった。

 いや、むしろ深まった、と言うべきかもしれない。


 それ以来、私はパパと電話やメールで頻繁にやりとりするようになった。

 パパの仕事は忙しいけれど、時間を作ってくれる時は、食事に連れて行ってくれたり、ただ話を聞いてくれたりした。

 レストランで向かい合う時間も、街のカフェで隣に座る時間も、どれも私にとって宝物だった。


 ある日のこと。

 渋谷女学館の文化祭の日、来場している同学年の男子校の生徒から「今度、一緒に遊びに行かない?」と誘われた。

 その話をパパに伝えたら——。


 「……それはちょっと問題だな」

 難しい顔になったパパが、低い声で言った。

 「男なんて、絶対に心を許したりしちゃ駄目だぞ、詩織ちゃん」


 ——まるで本当のお父さんみたい。

 私は笑いを堪えるのに必死だった。


 その夜、パパはお母さんにも電話をしていたらしい。

 「詩織ちゃんに変な虫がつかないようにした方がいい。―まったく娘ってのは、丹精込めて育ても、他の男に取られるかと思うと本当に腹立たしいな」

 受話口の向こうでそんなふうに愚痴愚痴と言っているパパの声を聞きながら、お母さんと私は大笑いしてしまった。


 「広瀬パパは、オレよりよっぽど過保護だなぁ」

 お父さんまで苦笑しながらそう言った。


 「自分自身が一番“女性の敵”みたいな人だったくせに、よく言うよね」

 お母さんは、パパに対して容赦ない。

 「きっと啓介は、世の中の男性は全部、自分と同程度に悪い男なんだと決めつけていて、それで動揺しているのよ」

 ―昔パパはそんなに遊んでいる人だったのかな?


 男子校の生徒さんから誘われたのは事実。

 でも私は、実は即座に断っていた。

 ——だって、私にはパパがいるし、パパと比べたらハッキリ言って全然だ。


 私にとって一番好きで、一番憧れで、一番信じられる人。

 少なくとも、パパのお眼鏡にかなうような相手じゃなければ、全然問題外。


 でも少しはパパを動揺させないと、パパが私を見てくれないとつまらない。

 だから、わざと少し大げさに話して、パパが心配するようにしてみたのだ。

 思いのほか真剣な顔で慌てるパパを見て、心の中でガッツポーズをした。

 ——大成功。


 私はきっと、まだしばらくは「パパコン」のままなんだろうな。

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