第47話:藤沢 詩織

 弟たちは前日からお父さん方の祖父の家に遊びに行っていた。

 だから今日、舞浜に向かうのは——私とお父さんとお母さん、そしてパパ。


 朝早く、まだ人の波が完全に膨らむ前の舞浜駅に降り立ったとき、胸がどきどきしていた。

 四人でディスティニーランドに向かう。

 ——夢のような時間が、本当に始まるんだ。


 開門と同時にゲートを抜ける。

 色とりどりのバルーン、甘いポップコーンの匂い、遠くに聞こえる音楽。

 なのに、私はそれ以上に、隣にいるパパばかりを意識してしまっていた。


 けれどパパは、思っていたのと違う行動を取った。

 「詩織ちゃん、これは3人乗りだから……お父さんとお母さんと一緒に乗ってきなさい」

 「え? でもパパは?」

 「オレはここで待ってるよ。写真でも撮っててあげる」


 少しむっとした。

 ——これじゃ、ダブルデートにならないじゃん!


 「パパ! 一緒に乗ろうよ!」

 思わず抗議すると、パパは笑って肩をすくめた。

 「あー……パパ、年だからなあ。うーん、ちょっと休憩させてくれ」


 その軽い調子に誤魔化されて、結局私はお父さんとお母さんとアトラクションに乗った。

 でも、戻ってきたときにパパがカメラを構えていて、私たちを撮ってくれているのを見ると……胸がまた温かくなってしまう。


 パパのそういう配慮は、きっとお父さんにも伝わっていた。

 最初はまだ少し険しい顔をしていたお父さんが、だんだんと表情を和らげていくのが分かった。


 昼過ぎ、イーストサイド・カフェに入ったときには、とうとうお父さんはパパと並んでビールを飲み交わしていた。

 「本当に……広瀬さんには敵わないなぁと思いましたよ」

 そんな風にパパと仲良く話しているお父さんを見て、私はちょっと拗ねていた。


 お母さんに文句を言う。

 「お父さんが、パパを取っちゃったじゃん!(怒)」

 ちょっとご機嫌斜めな私を見て苦笑するお母さんだ。


 そのうち、お母さんも、お父さんとパパと混じって楽しそうに会話するようになった。それを見ると、不思議と嬉しい気持ちもこみ上げてきた。

 私の大切な人たちが、こうして一緒に笑っている。

 その光景は、ずっと見ていたいくらい幸せだった。


 夜になり、エレクトリカルパレードの光がパーク全体を染めていく。

 その後の花火を見上げながら、私は胸の奥で思った。


 ——今日のダブルデートは、一生忘れられない記憶になる。


 夢のような一日をくれたパパに感謝しながら、私は夜空の光に両手を伸ばした。

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