第23話 朝吹さまの作品
企画にご参加ありがとうございました。
朝吹さまは、普段、自主企画の賞の選者側ですから、ご参加いただいたときにはビックリしました。
未熟ながら、感想を書かせていただきます。
あくまでそう読む人がいるんだな、という意味あいです!
では、早速…
♢
そのピエロの人形は、輸入雑貨店の棚に並んでいたいろんな国の人形の中から、「これ、上品な顔ね」と母が選んだ。
高さ十センチほど。腕と足が付け根から動き、人形は左右に足を投げ出したかっこうで座らせることも出来た。
→もう面白そうですね。出だしから世界が始まる。
紺地に白と臙脂の水玉もようの服を着て、ひらひらした金色の襟をつけ、黒と紫のラメ糸で織られた帽子をつけたそのピエロは、てっきりドイツかフランスあたりの人形だろうと思い込んでいたのだが、足の裏に貼ってあるシールを後から見ると、中国製だった。
→たった一段落なんですけど、ドイツ・フランスからの中国と書いただけで、主人公の心の動きを感じました。
きれいな青い目、つんとした小さな鼻、そして柔らかく閉じた唇まで、ほそい筆で丁寧に描かれ、少女がままごとに使う人形というよりは、飾り物として眺めておくのに相応しく、たまに手にとって手足を動かして遊ぶ他は、わたしはそれを、本棚の上にちょこんと乗せておくことにした。
→服の描写と顔の描写を分けているので、ピエロの顔の印象が鮮明にイメージできます。最後のオチから考えるとここの美しさは大事ですね。
それからそのピエロの人形は、わたしの人生にくっついて、進学先や就職先の他県にも、そして結婚した後の新居にも、とことこと小さな足でわたしの後を追いかけてくるようにして、いつも近くに存在していた。
→単に人形のお話でなく、幻想まじりになるのがさすがだと思いました。
いま、そのピエロ人形は、生ごみに混じって、市が指定した薄緑のゴミ袋の中にある。
→急落!美しいピエロと生ごみ!
はあ、とわたしは溜息をついた。
これが子どもの頃ならば、「お母さん!」と悲鳴を上げて母の許にすっ飛んでいくのだが、大人になるとこういう失敗も、自分の胸に納めて対処しなければならない。
はああ。
→主人公の具体的な動作が入って、今までより主人公が近く感じました。
老人のようなシミまで浮いている。
→こういう細かな描写が好きです。
上品な顔ね。そう云った母の声まで憶えているというのに、ピエロからは、人形の命ともいえる顔、目や鼻や口がきれいに流れ去って消えていた。油彩で描かれているとばかり思い込んでいたその人形の目鼻立ちは、どうやら水彩で描かれていたようなのだ。
→油彩だと思うよ普通…。と、主人公と同感。主人公の描写が親切で、読み手としてはよくシンクロします。
後悔先に立たず。あとに残されたのは、白目を剥いた、まるで今から頭髪をつけて彩色されるのを待っている文楽人形の頭部のような、何とも云えない不気味な一体だった。それはピエロというより、深海魚か宇宙人だった。
→目に浮かびますね……。
わたしはそれを大急ぎで、ごみ袋の中に投げ込んだ。
怖ろしかったからではない。気が動転していたわけでもない。顔が消えてしまったピエロ人形は、わたしの知っている、わたしが子どもの頃から親しんできた、清朝後期の美人画のような筆致の、あの品のいい人形では、もうなかったからだ。
→そっかぁ……。
悩まなかったといえば嘘になる。
今なら間に合う。今ならまだ。
腐りかけの野菜くずに混じって棄てられているあのピエロを、今ならまだ救出できる。
→ひぃぃ!本当に?臭くない?いや臭いだろう……。
顔は、わたしが描けばよいのだ。そこそこ絵心もあるのだから、まったく同じではなくても、可愛く仕上げることは出来るだろう。たとえ日光東照宮のあの三猿のような悲惨な改悪に近い出来になったとしても、長年連れ添ったピエロ人形なのだからして。
→そうだけど……。と、私自身は無理かなぁ、と思いつつ、その分主人公の焦りがリアルに感じました。
わたしは翌朝、そのごみ袋をそのままゴミ回収所に出した。
→諦めたんだ!
顔の消えたピエロを棄てた。
心を決めるにあたり、想い出の品々をひとつひとつ脳裏に想い浮かべてみて、それらがいま、手許にあってもなくても、その品にまつわる愛着には大差がないのではないかという、わたしなりの心理試験を一晩かけてやってみた。
→なるほど。これはやるやる。
その恋むすびの御守りがどうなったかというと、まったく憶えていない。失ったか、棄てたか、友だちにあげたか、とにかく憶えていない。憶えていないのだが、空豆のような手触りや、細筆で描かれたあの穏やかなおじぞうさんの顔は、ありありと憶えている。
よし。
→描写が自然かつ具体的でしっかりイメージできます。当たり前なことを言ってすみませんが、文章がうまいからですね。書いている内容も心当たりありありです。
人形との想い出や愛着はわたし個人の記憶に繋がれている。失っても、ちんまりと座っていたあの姿は、この先いつでも必要な時にちゃんと想い出すことが出来るだろう。
その日、わたしは人形を置いていた棚から目をそらして過ごした。
→現実にある一区切りですね。
♢
総評
隙がないですw
出だしから引き込み、読み手の気持ちを揺さぶる仕掛けがすごい。
私、一読目は普通に読んで、二読目でどうしてそう思ったかを考えながら読んでます。
一読目は、「これで2000字かよ」と思いました。
ピエロの美しさと、そこからの日常の対比。
計算と筆力が尽くされていると感じました。
内容については、別れに対する自分の整理という風に捉えましたが、捨てられないとは何か、
捨てるとは何か、というテーマについて、自分のことを思い起こしました。
ひいては死ぬこと生きることにまで繋がるように感じました。
濃厚にトリを飾っていただき、ありがとうございました!
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