怪異と神様の同居生活
ラクザン
第一話 神様、名乗り出る
俺は昔から、普通の人には見えないものが見えていた。電柱の影から覗く半透明な顔、コンビニの自動ドアにまとわりつく手、廃屋の窓辺にたたずむ知らない人影。
——つまり怪異と呼ばれるものだ。
でも流石に10年も見えてると流石に慣れてしまった。猪突猛進で走ってくる怪異を横目に見ながら今日の夕飯なんだろって考えるくらいには。
そんなある日、学校終わりに神社の参道を歩いていると拝殿の前で賽銭箱を漁ってる怪異がいた。もう一度言おう、賽銭箱を漁ってなんにも入ってないと落ち込んで石畳の上であぐらをかいてる怪異だ。
俺は見てはいけない何かをみたのか?それとも最近の疲れが溜まってんのかな。
俺はとりあえず目を合わせないように後ろを向いて帰ろうとしたときだった。
「見えてるよねぇ、君。」
拝殿の影に座り込んでいた怪異は、俺の顔を上からじっくりと覗き込むように見つめていた。
近くで見ると、妙に人間らしい。いや、人間そのものだ。
髪は濡れたみたいに黒く、瞳はやたら澄んでいる。
「あーあ。せっかく神様やってんのに、お賽銭ゼロとか、信仰心ってどこ行ったんだろうねぇ」
……神様?
俺は思わず振り返りそうになるけど、彼女の視線がまっすぐ突き刺さってくる。
「ねぇねぇ見えてるんならさ!ちょっとお金落としてってよ〜今の子供って年玉結構もらってるでしょー」
こいつが神?俺は混乱しつつも一つ分かったことがある。
絶対怪異より面倒くさいヤツだ
俺は思わず口を開いた。
「……神様って、もっとこう、ありがたい感じじゃないのか?」
少女は頬を膨らませて石畳にゴロンと寝転んだ。
「ありがたいよ?だってほら、私、見えてるでしょ。ありがた迷惑ってやつ!」
妙に得意げに笑うその顔に、背筋がスッと冷える。
笑っているはずなのに、影が濃すぎる。人間の輪郭なのに、どこか歪んでいる。
俺は悟った。
——やっぱり怪異と神様の区別なんて、俺にはつかない。
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