なにかに目覚めた!
空から女の子が落ちてきた。
何を言っているかわからない? 私も分からない。
だがしかし現在進行形でお腹の上にいる。
私は潰されて死んだ。魂のぬけたあほ面をさらしてる。
まろびでた魂がもしや私なのでは?
これが幽体離脱か。初めて経験した。
この体からでている糸みたいなの切ったら本当に死んじゃうのかな?
これ戻れるのかな? どうなんだろ?
「あれ、私生きて……あ、あぁぁぁぁぁあ!」
落ちてきた女の子がなんか言ってます。顔を上下させて忙しいですね。
あとこの子イヌ耳ついてます。可愛いですね。その耳ゴールデンレトリバーですか? もふもふしたいです。
よく見ると不思議な恰好です。どこのコスプレさんでしょう?
「え、えっと。ごめんなさい!!!」
ふむ。尻尾がない。悲しい。私は悲しいですよ。
もっとケモ度を上げてください。手とか鼻先とか。
二足歩行のけものが至高なのです……。わんこ可愛いよ。わんこ可愛い。
「玉の緒はまだ繋がってますし肉体の損傷も少ないので頑張って復活させます!」
生霊? 生霊でいいのかな? この状態を見えているくらいだしできるのかも?
どうやるんだろう? 呪文を唱えてファンタジーな力を使うとかかな?
こう見えて神道系列な力の使い手だったら面白いかも?
「……そういえばお姉さん、すごい落ち着いてますね。こういうの慣れてます?」
突然すぎて? あとこうもっと身近なモノの方が驚けるというか。
でも私が驚くモノってなんだろう? そんなにないような。
急に大きな声とか出してくる映画は声とかは出さないけど体が反応しちゃうくらいかな? 怖いもの知らずというよりも自分の命が安い系。
「うーん? この世界ってもしかして特殊だったりしますかねぇ。とりあえずこう仰向けになってこの体に重なってもらえますか? すみません。私はまだ技が拙いので失敗するかもしれません」
ふーん。じゃあ仕方ないねぇ。まぁ、人死になんてそう出くわす事なさそうだし。
見た感じ荒れ果てた場所から来たっていう感じでもなさそう。
ほんわかわんわんパークみたいな世界観から来てない? 私そこ行きたい。
「……この世界ってもしかして危ない世界ですか? 生きるのもつらい地獄だったりするとか……。もしこのまま死にたいなら片手をあげてくれますか? 霊体の方で大丈夫ですよ?」
生きるのも死ぬのも面倒だとは思うけど、別に好んで死にたいわけではないよ。
生きられるなら生きるよ。死ぬなら足掻く事なく死ぬけど。
どうなっても私の人生。結末に後悔はなく、遺す物もなにもなし。
「お姉さん……。そう微笑まれてもわかりませんよ……。とりあえず死にたいわけじゃないんですね? 私確認しましたからね?」
犬のお姉さんは空中に穴を開けて腕を突っ込んだ。すごいファンタジー。
穴は白い光で満たされていてなんか面白い。後ろから覗いても中身が全く見えない。
うんうん唸りながら眉間にしわを寄せても、このお姉さん美人。
人顔なのが残念。身長は隣に座った感じ私よりも少し大きそう。170とかかな?
でも犬耳なだけでなんちゃって獣人ってこう主義主張がぶつかる部分だと思うんですよ。
今のこの世界ならこちらの方が生きやすいし、なんならその犬耳も髪に同化してて分かりづらいくらい。
……もしやこれは何か不思議な力で人間の姿に変身しているだけなのでは?
「ありました! ありました! これですね!」
白くて細い手先には何か不思議な紋様が書かれた包帯がありましたとさ。
不思議ですね。ちょっと掲げるように持っているだけで効果音が聞こえます。
すごいニコニコでこちらを見てますが、あ、はい、行きますね。
「これをですね、こうやって霊体と一緒に巻きつけますとね」
あ、出られなくなった? 違う。包帯に邪魔されてるんだ。
指先とかまだ巻かれていない部位がぶれて見える。
こうやって括り付けて治療するんですかね?
「……この体ってあなたのですよね? まだ動けませんか? 指とか動かしてみてください!」
そうか。この体は私のモノじゃないのか! いや、違う。私のだ!
せい! へい! さぁ、肉体よ! 動きたまえ!
少し曲がった? どうだろ? 曲がらない? MA☆GA☆RE☆!
「あ、少し曲がった気がします! その調子です! ふぁい! おー!」
パッション! パッション! パワー! POWER!
今こそ眠れる私の力が目覚める時! 怠惰の極み!
いや、これはダメなヤツだ。ちゃんと起きなさいよ。
SEY! HEY!
「すごい! 今魂の器が大きくなりましたよ!」
それ何?
「魂の器はですね、能力の上限を定めるモノですね」
「ほむ」
指をふりふりどやーんしているの可愛い。
イマジナリーな尻尾がすごいパタパタして見える。
きっと偽装を解けばあるんですよ。そこに。
「これを上手く使えば魔法とか使える様になるんですよ。今回は精神を固定するために使うのがいいと思いますね。包帯グルグルじゃ歩けないですし」
「ハロウィンの季節だし、コスプレと言い張ればいけるからお気になさらず」
神社の裏手からだと町の方は見えないけど、商店街とかカボチャがまだまだ出ていた。
ミイラ女として適当にトリックオアトリートしてれば許されそう。
でも声かける相手がまず思いつかないな。適当にふらついてればいいか。
「気にしてください!」
「いけるいける。むしろ不思議な力に目覚めた方が面白いというか、世の中楽しめそう。治癒魔法とかこの社会だとチートになると思うの。快復の促進なのか、ケガという事実をなくすのか、それぞれにメリットとデメリットがあるよねぇ」
快復の促進なら筋肉を一気に成長させられそう。相応にカロリーがいるとか、運動量が必要とかあるだろうけど。
ケガの事実をなくす方の回復は筋肉の成長はできない代わりに、不治の病とかを治せるだろう。
移植の失敗率を0にできるとなったらどれだけ金になるのか。どういう方法でそういう場面に立ち会うかが問題か。
「うーん……治癒系だったら今回の目的にも沿うのでダメとも言い難いです……。でもでも! そんな望んだ魔法が手に入るとは限らないんですよ!」
「それにしては何か固定はしやすいみたいなニュアンスを感じたよ」
「……まぁ、多少は方向性を持たせることできますよ。今回は器からはみ出ているのがありますのでそれを包帯に沿わせてやれば固定の概念を帯びるはずです。でも他の特性は私用意しないですからね!」
「つまり君のそばにいれば偽装のスキルか魔法のスキルが得られる可能性があると」
「なんでそう思うんですか!」
「耳の感じからしてわんこの方だと! あと私わんこが大好きなのでもっともふもふしてくれると助かるなーなんてね」
「なんでしょう……すごく鳥肌がたちました。あ、この線から先に踏み込まないでくださいね」
音速で離れられた……。悲しい。私は悲しいです。
わんこに嫌われるよりも重い罰なんて私にはないのですよ。
私は実質的にわんこに育てられた子なので、人間よりもわんこが好きなのに。
「え、儚くなってる……。そ、そこまでショックを受けないでくださいよ。ハグしてあげますから。ね?」
温かい……。人に触られたのって何年ぶりかな……。
肌に熱がしみこむ。熱が皮膚から皮膚へ直に流れ込む。
毛並みからゆっくりとしみこむ温かさではなく熱さ。
この感覚はちょっと惹かれる。欲しくなる。
「……なんでしょう。なんかこう間違えた気がします」
「離れるの……?」
「……捨てられた子みたいな目をしないでください……」
「捨てないでお母さん……」
「……今のは狙いましたね?」
「バレたか」
「バレますよ。もうそんなことをしなくても大丈夫ですよ」
なんでだろうね。ママ味が強い。私のママになってください。
まぁ、それは冗談として、なんかすごい甘えやすい。
わんこの気配がするからかも。人相手に私は甘えられないし。
「なんか闇が深そうですね……私でよければ相談にのりますよ?」
「んー、大したことじゃないよ? ただ人とかみ合わないだけだもの。できる事は多くても、結局は人間社会に適応できないだけの生き物というか」
「どういう点でかみ合わないと思っているんですか?」
「欲かな? 他の子はみんなアレ欲しいコレしたいがあるの。私にはそういうのがこれぽっちもなくてダメ。私は何もしなくてもなんでも出来てなんでも手に入るみたいなアンバランスさもあるし。ほんとウザい生き物だよね。ちょっとだけ友達が欲しいくらいの感覚があるけど、少なくとも私をウザがらない子なんていないの。それこそわんこくらいしか私を受け入れてくれないもの」
わんこにもそろそろ嫌われるんじゃないかな。
そしたらもう私の居場所なんてないのよね。
好き勝手に生きるといったって、今のそれがそうじゃないのかと言われたらお終いだよ。
「そうなんだね。じゃあ、私が一緒にいてあげる。私じゃダメ?」
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