第13話 逆連想ゲームでも……しない?
「そういえば佳春。SNSで新規イラストを投稿したいと言っていたな」
「はい、新しいファンを獲得するためにはやっぱりSNSが便利なので。ただどういうテーマにするかでずっと悩んでいて」
「ふむ、そうだな……じゃあここはひとつ、逆連想ゲームをしてみないか」
「逆連想ゲーム?」
「俺が適当にお題を出すから、それに関連しそうな言葉を次々と挙げていって、ピンときたものを描くんだ」
「なるほど、面白そうです」
俺は部屋の中央に置かれたテーブルに座ると、佳春も座布団を持ってきて座った。ちょうどタイミングよく志乃もやってくる。彼女は飾りっ気のない灰色のスウェットを着用していた。どうやら寝間着らしい。
「改めておじゃましまーす」
「お、ちょうどいい。志乃も逆連想ゲームに参加してみないか」
「逆連想ゲーム?」
首を傾げる志乃。その拍子に絹のような髪がさらさらとこぼれる。お風呂上がりということもあって、その様子にはどこか艶めかしさもあった。
「ヒントからお題を推測するんじゃなくて、お題からヒントを連想していって佳春の描くイラストのアイデアになりそうなものを探すんだ」
「なんか、ちょっと面白そうかも」
「じゃあさっそくやりましょう!」
みんなでテーブルを囲むように座る。俺は近くからA4用紙とペンを持ってくると、さっそく一つ目のお題をサラサラと書いていく。そんな俺の様子を、佳春は若干訝しげな瞳で見つめる。
「ちなみに先輩、最初から『妹』とかはナシですからね」
「…………」
俺は書いている手をピタッと止め、新たに用紙を一枚持ってくる。さて、気を取り直してお題を書いていこう。
「はぁ~」
「なんだそのクソデカため息は」
「書いてましたよね」
「書いてないが」
「新しいのに変えるときにチラッと見えましたよ。低身長色白病弱系妹という文字が」
「なっ、最初からのぞき見するのはルール違反だろうが」
「そこからどうやって連想しろって言うんですか!」
「いくらでもあるだろうが。たとえばホスピス、不治の病、セーラー服、逃避行とかな」
「やっぱり先輩に任せるのは間違いでした。論外すぎます」
「ちょっ!?」
佳春は俺の手から紙とペンを奪い取ると、自分でお題を書き始める。なんだか本末転倒な気がしないでもないが、ひとまず黙って待つとしよう。
やがて、佳春は満足げな表情とともにテーブルの中央にその紙を置いた。そこには彼女の丸っこい文字で「田舎」と書かれている。
「うーん、田舎かぁ」
「桜ヶ丘先輩、なにかアイデアはありますか?」
「昔の記憶しかないけど……虫取りとか?」
「いいですね、いちおう記録しておきます」
佳春は液タブで白紙を開き、そこにさらさらっとメモを取る。
「っていうか、桜ヶ丘先輩って虫取りとかするんですか」
「……昔はちょっとだけやんちゃだったからね」
「そういえば志乃、ザリガニとかカエルとか取りまくってたよな。素手で」
「……『ちょっとだけ』?」
「む、昔の話だってば。ほら、早く次の話題いこ?」
と、志乃はやんちゃだったころの話を掘り返されて恥ずかしくなったのか、少しだけ頬を赤らめながら次を促す。
「そうだな、やっぱり森林の奥にたたずむ神社じゃないか」
「ああ、先輩のアパートに来る途中にあるアレみたいなやつですか」
「そうだ。あれこそ田舎にしかないものだろう」
「先輩にしては良い案だしますね。てっきりノースリーブを着た日焼けスポーティ系妹とか言い出すのかと思ってました」
「佳春もだんだん俺の嗜好が分かるようになってきたな。成長が目覚ましいぞ」
「何ひとつ嬉しくないです」
佳春はなんだかんだ言いながらもメモを取る。
「次は佳春の番だな」
「うーん……自分で提案しておいてなんですが、パッと思いつきませんね」
「本当になんでもいいんじゃない? 空とか森とか」
「それはなんでもよすぎだ……そうだな、じゃあ田舎を題材にした同人誌のことを考えてみるといい」
「結局、行きつく先はそこなんですね……」
「そうだ。なんたって俺たちは昔から同人畑の人間だからな」
「うーん……」
と、佳春はうなりながらアイデア……もとい田舎に連想されるものをひねり出している。
「なにかいい案は見つかったか」
「早すぎますよ」
「スピードが足りないな。俺はもう14個くらい思いついたぞ」
「先輩のアイデアの引き出しどうなってるんですか」
佳春はうんうん悩んだ末に、「……夏祭り?」と自信なさげに答える。
「普通だな」
「普通だね」
「桜ヶ丘先輩まで!?」
「まあ、せっかく夏祭りという言葉が出てきたから、それを掘り下げてみるか」
俺の幼なじみは彼女であって妹ではない。 魂野風人 @konno_kazehito
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