第17話 銀河級三角関係!?
放課後の天文台。山の上の空気は、街よりひときわ冷たく澄んでいる。窓ガラスの向こうには冬の青白い空が広がり、地平線には夕陽が沈みかけていた。橙から紫に変わりゆく光が、机の上の分厚い天文誌や望遠鏡を柔らかく照らす。
あかりは双眼鏡を覗きながら、まだ昼間の「眞鍋エージェント事件」の余韻を引きずっていた。
(はぁ……街中であんなに取り乱すなんて……。絶対、美咲に笑われてる……。いや、もう笑われ尽くしてるに決まってる……!)
頬を赤らめ、両手で双眼鏡を支え直す。視界には冬の星座が浮かび上がっていた。オリオンの三つ星。シリウスの青白い光。だがあかりの頭の中では、すでにそれらは宇宙戦艦や暗号衛星へと変換されてしまっている。
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後ろでは、美咲がノートを広げていた。ペン先は星図ではなく「あかり観察日誌」に走る。表情は真面目そのものだが、心の奥はすでに笑いのビッグバンを堪えている。
(……はぁ、やっぱりこの子、常識の大気圏突破してるわ……。今日も記録、濃すぎる……)
美咲はため息混じりに小さく笑う。だが声には出さない。観察対象を驚かせてはならない。今や彼女の役割は、宇宙的妄想を生む親友を「記録する者」であり「観察する者」だった。
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あかりの脳内妄想は再燃した。
(待って……もしかして光も……敵側のエージェントだったりして!? いや、それどころか宇宙連合に所属していて、眞鍋と密かに繋がってる……!?)
瞬間、視界の星々がパッと変わる。
光は黒マントを羽織った銀河連合のエージェントに変身。
眞鍋は暗黒星雲を背にした秘密組織の工作員として立ちはだかる。
そして中央にいる自分は——「肛門銀河」の守護者。
(やばい……これ、完全に三角関係……!? 宇宙規模のラブとバトルが同時進行してるんだけど!?)
胸の鼓動が早まる。双眼鏡を覗く両目は真剣そのものだが、口元は小さく動いている。
「え、えっと……ブラックホール級の防御を……いや、ここはワームホールで回避……!」
ブツブツ呟く姿は、傍から見れば完全に怪しい。だが、美咲は笑いを堪えながら黙々とメモを続けていた。
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妄想は一気に銀河戦争へと発展した。
眞鍋はスーツの袖から光子ビームを放ち、光はマントを翻してシールドを展開。あかりは必死に肛門銀河の防御機構を作動させる。
(ここは……放射状の肛門皺をアンテナにして反撃っ! 肛門括約筋の二重リングでブラックホール防壁を構築!)
想像の中で、肛門は宇宙要塞と化す。リングが唸り、閃光が走り、無数の星々が戦場と化した。
「やめてぇぇええ!銀河の平和は私の肛門にかかってるの!!」
——現実。
「え、えっと……あかり?」
隣で光が穏やかに首を傾げていた。
あかりはハッとし、双眼鏡を机に置いた。顔は真っ赤。美咲の背に隠れる。
「な、なんでもないですぅ……!」
美咲は肩を震わせてペンを走らせる。涙が出そうだ。
(……あーもう、この子……面白すぎて泣ける……! 本当に銀河規模でアホすぎる……!)
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ようやく落ち着いたあかりは、窓の外を見上げた。夜の帳が降り始め、星がひとつ、またひとつ瞬き始める。
(……あぁ、危なかった……。でも……光が敵でも味方でも、私は絶対に守る……! だって、私の肛門宇宙論の未来は……このドキドキと一緒にあるんだもん……)
美咲はそんなあかりを横目で見て、静かに笑った。
(……やっぱり、あかりの宇宙は広がり続ける。三角関係だろうと銀河戦争だろうと、この子にかかれば全部「肛門宇宙論」の一部……!)
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星空の下、天文台の空気は一層澄んでいった。
あかりの胸の中には、宇宙戦争の熱と、ほんの少しの恋の熱が、同じ比重で燃え続けていた。
——銀河級三角関係、ここに爆誕。
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