小さな変化に気づく俺(妄想癖あり)

 翌日の朝。

 いつものように教室に入ると、友達同士の雑談が飛び交っている。

 俺は自分の席に腰を下ろし、横を見て、ふと違和感を覚えた。


(……ん? ユイ、なんか変わった?)


 隣の席の天宮ユイ。

 いつもと同じ黒髪ロング、白いカーディガン、きっちり制服スカート。

 けれど今日は――耳元で小さく光るものがあった。


(あれ……ピヤス? いや、ピアスじゃなくてイヤリングだな)


 シルバーの小ぶりな飾りが、光を受けて控えめに揺れている。

 たったそれだけなのに、ほんのり雰囲気が違う。

 例えるなら、透明な水に一滴だけ色を垂らしたみたいな。


「おはよう、イツキくん」

 ユイがにこっと笑って挨拶してきた。

 ――いつも通り、のはず。だけど。


「……お、おはよ」


 目が、どうしても耳元に吸い寄せられてしまう。


(うお……。大人っぽい……! 昨日までのユイじゃない感じするぞ)


 そして俺の脳内スクリーンが勝手に上映を始める。



――昼休みの教室。

 ユイが髪をかき上げ、イヤリングを軽く揺らしながら、顔を近づけてくる。

『ねえ、イツキくん。このイヤリング、似合ってる?』

 耳元からシャンプーの香り。距離ゼロ。


『え、えっと……に、似合ってる……と思う』

『ふふ、ありがと』

 ――微笑み。キラキラ。心臓爆発。


(やっば……! こんなの、恋に落ちるどころか、秒でゲームオーバーだろ俺!)


 

 ……はっ。現実に戻る。

「イツキくん? どうかした?」

 ユイが首をかしげて俺を覗き込んでいた。

 まさに妄想と現実がシンクロしてしまい、心臓が再びオーバーヒート。


「な、なんでもない! なんでもないから!」

 あまりに焦った声を出したせいで、前の席のやつがニヤついて俺を見ていた。


(やっべ……! 俺の妄想癖がバレたら終わる……!)


 それでも、胸の奥のざわめきは消えなかった。ほんの小さな変化にすぎないのに、ユイが別人みたいに見えてしまう。


(……気のせいか? でも……いや、やっぱユイ、なんか変わり始めてるよな)


 確信はない。

 けれど俺の敏感センサーが、じわじわと警告を鳴らしていた。

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