第12話 回復

店のお針子らしき女の子が出てきて、後を引き受けてくれたので、血で汚れた布を洗い終えた私は店に戻った。

 ルドが上半身裸のマーシュの右肩に舌を這わせている。

 ……何してるんだ、この男ども。イチャつきやがって。 

「ルド、マーシュ」

私が声をかけると、マーシュはにやぁと下品に笑い、それから真面目な顔で肩の傷を指した。

 酷く抉れていたはずなのに、もう皮膚が再生している。

 マーシュの自然治癒力が半端無いのか、それともやはりルドのが特殊なのか。

 私が腕組みをして考えていると、ルドが短剣を抜いて、自分の手の甲に薄く切り傷をつけた。じわじわと血が滲む傷を自分でぺろっと舐めると、もう傷口が塞がっていた。 

ルドの青い瞳が普段よりいっそう青みを増し、輝いて見えるのは、なんか不思議な力を発動中ですっていうアレ……?


私は、前に読んだ異能者系ファンタジー小説を思い出した。案外、ファンタジー小説の書き手って、作者自身が異能者だったりして。

 冗談はさておき、ルドは自分の能力を私に説明するのに、ジェスチャーよりも見せたほうが早いと判断したのだろうけど、わざわざ傷を作らせたのが本当に申し訳ないな。私がこの世界の言葉を知らないばかりに……。

 

 ルドに治癒の力があるのは分かったけれど、すべての傷を治すのは流石にできないようだ。

 傷口をとりあえず塞ぎ、回復力も高められるといった感じかな。

 少しふらつきながら、ルドが立ち上がる。

 戦いの疲れ、それなりの失血、異能を発動したこと。たぶんそれらが一気にルドの体に負荷となって押し寄せたのだろう。

 倒れ込んでくるルドを慌てて抱きとめる。

 私の胸元にぽふっと顔を埋めて、ルドは……眠ってしまった。

すよすよと寝息をたてるルドを、マーシュが引き取ってくれる。


 ちょっと、マーシュ。ついでに私の胸を揉むんじゃない、セクハラだぞ。

 あと、勝手に触っておいて、あからさまに残念そうな顔をするんじゃない。

失礼だな全く。


 ……あぁもう、マーシュと二人でいるの、色々めんどくさい。


 とはいえ怪我人をぶん殴るわけにはいかないので、その手を思いっきりはたいてやった。


衣料店の人に頭を下げ、私達は往来に出た。二頭の馬はおとなしく主人ランを待っていた。

 いい子たちだな。


 マーシュは、死んだ獣の回収が済んだらしい軍服の一行に声を掛け、何か交渉していた。

栗毛と灰色の馬たちに、獣を山積みにした荷車を曳かせる代わり、自分たちを荷車に座らせるようにと話をつけてきたようだ。


がたがた揺れる荷車に座り、街の通りを行く。

13騎の隊列。

一番後ろに荷車の私たち。

私の背後には獣の死骸の山。

真横にはじろじろと私を見てくるマーシュ。

私の膝枕で眠っているルドの、寝顔があどけなくて微笑ましい

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