第9話 つかのま

ランの手作りの朝ごはんを皆でお腹いっぱい食べたあと。


食べ終わった食器をワゴンにのせることすらせず、男どもはどこかへ行ってしまった。


ランは食卓に放置された食器を何も言わずに、回収する。 

 私は手持ち無沙汰だし、かと言って勝手になにかするわけにもいかない(厨房での一件で流石に懲りた)。


なのでランの後ろを雛鳥のごとくに私はついて回った。


 ランは厨房にワゴンを押していき、食器を洗っていく。

粉石鹸を水で溶き、植物の極細繊維の塊がスポンジ代わりのようだ。

私が興味を持って見ていると、ランが洗い上げた食器と乾いた布巾を渡してきた。

両方受け取ってお皿拭きをしたら、ランが面白いものを見るような目で私を見つめ、今度は金網のかごを指すので私はそこにお皿を立てて入れた。


ランはそれを見て満足そうに頷いて、また一枚お皿をくれた。


そんな風に食後の洗い物をランと一緒にさせてもらえて私はとっても嬉しかった。

 

水仕事の次は洗濯だ。

服は浴室に大きな洗い桶を据えて、そこで手洗いするようだ。


浴室の隅に籠があり、そこに洗濯物が積まれていた。ランは男どもの下着パンツを刻みのついた板にゴシゴシこすりつけて洗っている。

ランはこの家の家事全般を任されているようだ。


信頼の証なのかもしれないけれど……これではまるで家政婦さんではないか。

……私は自分の下着は自分で洗おう……。


 塔の最上部が屋根付きの屋上になっていて、物干し場として使われていた。塔の下の浴室で大きな洗濯したあと、それらを塔の屋上で干すようだ。


物干し場には、昨日私が吐いて汚したネグリジェとランのシャツが既にちゃんと干されていた。 

 塔からは裏庭が見下ろせた。

男どもがまた剣の稽古に励んでいる。

素振りではなくて、マーシュがルドに剣を教えているようだ。

 

おい男ども。剣の稽古は大切なのだろうけど、女性に自分の下着を手洗いさせるなよ。


 でも別れた彼氏あのクズ男は……女が家のことをするのは当然だと言い放ったっけ。いやいやいや、あんな奴のことは忘れよう。


 ランと一緒に洗濯物を干しながら、私はとりとめもなくあれこれ思ったのだった……。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る