第3話 覚醒

だから、再び目が覚めるなんて思っていなくて。


 目が覚めて、自分が地面に仰向けで転がっているのに気づいたとき、生きてることにとてもがっかりした。


 あぁ、死ねなかったんだ。


でもあの高さから落ちたのだから、色々とエグい怪我、下手すりゃどこか麻痺とかもして。たぶん一人では生活できない身体になってる。あー、最悪。死のうとなんてするんじゃなかった。


 まだ寝ぼけている頭で、最悪のシナリオを思い描いてため息をついたとき。


 べたり。ぼたり。


 頬に粘り気のあるものが滴って、私は ハッとした。


 ぐううううううう、うるるるるぅ。


 頭の上から唸り声が聞こえる。


 え?……唸り声?


 恐る恐るそちらを横目で見上げると。


馬鹿でかいうえに顔面まで毛むくじゃらの真っ黒い生き物がいた。


なに、こいつ。明らかに、熊ではない。

俯世流ふせる山に、いや、日本に

こんな肉食獣がいるなんて聞いたことないんだが!?


そいつは手足をついたゴリラみたいな四つん這いの体勢で私に覆い被さってきていて、

口からはダラダラと生臭い涎を垂らしている。

しかも、その口には肉食獣ばりの牙が覗いている。




ちょっと、これ、文字通り、喰われる展開!?


 いやだ、死にたくない。


私ははっきりそう思った。


 こんなところで、こんな形で、死にたくない。

食い殺されるなんていくらなんでもバッドエンドすぎる


 私は無我夢中で毛むくじゃらの肉食ゴリラの下から這い出し、駆け出した。


周りは鬱蒼とした森。

私は、その中を貫く一本道を必死に走る。


なんだ、私、全く怪我してないじゃん。

むっちゃ走れる。私は山頂から落ちたはずなのに。

頭の片隅で、そんなことを考えていた。


 毛むくじゃらの獣は逃げ出した私を当然追ってくるが、図体が大きい分、そこまで速くは駆けられないようだ。


このまま逃げ切れそうだ。



道の向こうに明るい光が見える。

光の中に飛び込めば、きっと、今度こそ目が覚める。


ほら、ドラマとかである、人が目覚める前のシーンみたいに。


私はそう期待しながら、何もない道を必死に走った。


……飛び降りて無傷なのも、あり得ない生き物に追われているのも。

これが夢だからだ。

そう考えれば全ての説明がつく。


眩しさに備えて瞼を閉じ、森を抜け……


私の足元が突然、がくりと沈み込んだ。


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